2018年10月23日 (火)

松竹製作「助六曲輪初花桜」歌舞伎座

<2018年10月20日(土)夜>

吉原の三浦屋で一番の花魁である揚巻。その揚巻が三浦屋の得意客を袖にしてもぞっこんなのが花川戸の助六。侍と見ては喧嘩を売って歩くやくざ者だが、見事な色男っぷりに吉原では煙管の雨が降る。それにしてもあまりの乱暴振りだったが、実は訳があった。

一幕見席。最後がすごい中途半端だったけど、Wikipediaによれば元は3時間を2時間に縮めてそこで止めるのが通例の演出とのこと。筋書きだけならもうどうでもよくて、助六役がいかに格好良く見得と啖呵を切ってくれるか、あと所々のアドリブで楽しませてくれるかだけの芝居。

物語を楽しみたい自分のような客にとっては肩透かしもいいところの演目だったけど、これがびっくりするような大人気。前売完売どころか、一幕見席も満員札止めで後からきて並べもしないで帰る人多数。しかもその前の演目の一幕見席も売切れていた(一幕見席をつなげると早く会場に入って座席を確保できるのが歌舞伎座ルール)。その立見も老若男女いろいろで、驚くべきは杖代わりにカートを使うような御婦人が立見で頑張るほど。なんだ、歌舞伎は筋より役者なのか、色っぽい役者が綺麗な格好をして見得を切ったり気の利いた台詞を言ったりするのを、スナップショットで楽しむものなのか、うすうす気がついていたけど、汚しの入った衣装や舞台のリアリズムより、省略と誇張を駆使したぴかぴかのお約束が好きなのか。というのを見せつけられた次第。

いや、それはわからなくもないんだ。疲れてしんどいときに深刻な芝居を観ると身体がもたないのは身をもって体験しているところで、「せめて観ている間だけでも笑ってほしいと願っている」という黒柳徹子の考えにも大いに賛同する。昼間の芝居が悲惨な話なのに感動したのは体調がよかったことも大いに関係している。さらにいえば自分も仁左衛門が格好いいのは認める。けど、それももう少しの筋があり役があった上でのことだし、もうちょっと喜怒哀楽のバランスが取れてもいいんじゃないかと。まあ、「助六」についてお約束を知ったうえで楽しむもので、そういう教養を求められるのは「助六」が古典の位置づけを確立しているということなのでしょう。ちなみに誰が助六を演じるかでタイトルも異なって、今回のタイトルは仁左衛門専用らしい。初心者としてそういうところから少しずつお約束を学ぶことにします。

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2018年10月20日 (土)

新国立劇場主催「誤解」新国立劇場小劇場

<2018年10月20日(土)昼>

ヨーロッパの片田舎で使用人をおいて小さな宿を経営する母娘。父は亡くなり息子は20年前に出奔したきり。いつか海と太陽の町に引越すことを夢見て、裕福な独り客を殺害しては金品を強奪している。そこへ仕事で成功し結婚もした息子が帰ってくるが、母娘は気がつかない。それを見た息子は、名乗り出る言葉が浮かぶまで独り客として泊まりたいと妻を説得し、妻を近隣のホテルに返して自分は偽名で宿に泊まる。疲れたので今回は殺害を見送りたいという母に対して、これを見逃す手はないと説得する娘。

公演も終わったしそこはネタばれしてもいいから書くけど、結局殺害してしまい、その後で息子の身元がわかる。この殺害をはさんで、息子の身元が分かってから、母の絶望と、絶望する母に絶望する娘の圧倒的な台詞が繰広げられる。母を助けるために若い時期を田舎町で過ごして、それが海と太陽の町への憧れを経て、歪んだ動機を生んでしまう娘。娘しか頼る家族がいないばかりに娘を田舎町に縛りつけてしまっているが、その負い目から娘の殺人を手伝うようになってしまった母。どちらが先かわからない入れ子の依存関係から、息子の身元に気がついた瞬間に母は目が覚めるが、そこで突然置いてきぼりにされたことに気がついて母を詰る娘。

展開だけ観たら救いようのない話だけど、母娘の言い分に理解できるところ多数。殺人ほど大げさではないにしても、こういう親子関係を他人事とは思えない家族は現代日本には多いのではないか。あと、民衆と国家と山、という台詞があったけど、初演が1944年で第二次世界大戦中だった痕跡か。その時代の閉塞感も、残念ながら今の日本に近い気がする。

原文なのか翻訳なのか、独特な言い回しの多い脚本だったのも特徴的。これが「台詞に生理が同調するような台詞術の役者だとまだるっこしくていえないような台詞だが、作られたリズムを楽しめる役者だと大丈夫」な台詞の例なんだろう。少なくとも原田美枝子と小島聖は完璧に消化していた。母の原田美枝子の柔らかさと疲れとの混ざり具合も絶妙だったけど、娘の小島聖の、他人への頑なな態度で始まる前半から、母を詰る場面から絶望を語る場面が圧巻。長台詞をものともしないテンションで絶望を台詞で紡いで、代表作といってもいい仕上がり。あれだけ言われたらおもわず納得させられてしまう迫力。あと使用人役は最後に二言しか台詞がないけど、それを演じる小林勝也の存在感が素晴らしい。やっぱり神様とか運命という裏設定だったのか、普段なら無駄遣いと書くところだけど、あの立って見つめているだけで格好になる雰囲気は若い役者には出せないし、おもわぬ軽い動作もいい。息子の水橋研二は、人心を軽く見ること甚だしくて、あれは殺されてもしょうがない(笑)という意味で好演。その妻の深谷美歩だけ、今回台詞が身につかずに苦戦。

スタッフワークは安心の新国立劇場レベルだけど、シンプルな舞台に適度な透過度の大布を駆使して場面を転換した美術と、国籍がヨーロッパにも日本にも見える衣装を取上げておく。一言で言えば成功の部類で、この重たい話を真正面から取上げた演出家の稲葉賀恵の勝利。

<2018年10月22日(月)追記>

速報を清書。

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東京芸術劇場主催「ゲゲゲの先生へ」東京芸術劇場プレイハウス

<2018年10月13日(土)夜>

半人半妖怪の男が住んでいる、他に人もいない山奥のあばら家に、若い男女が逃げてくる。女性の妊娠がわかって駆落ちしてきたという。時は平成60年、ほぼすべての人口が都市に移っているが、都市部では子供がほとんど産まれず、まれに産まれた子供も国が取上げてしまい、しかも「フガフガ病」にかかっているという。もともと人間だった男がなぜ年もとらず食事もせずに平気な身体になったのかを語っているうちに、2人への追っ手がやってきて・・・。

水木しげるの世界観をもとに作られた一本。ねずみ男のような根津がなぜ半人半妖怪になったのかを語る前半と、やはり妖怪のようになってしまった女性を通じて現在の問題を俎上に乗せる後半とにわかれる。「遠野物語」くらいいろいろ怪しい話がてんこ盛りになるかと予想していたけど、妖怪は登場しても活躍は控え目。現代が近代に忘れてきたものというか、現代批判というか、妖怪より人間のほうが恐ろしいというか、そういう面が強い。後半飛ばして挽回していたけど、前半が地味にすぎた感あり。

松雪泰子がはまっていたのが良い意味で想定外で、決めポーズはさまになるし、妖怪役とレポーターの2役もこなす。「おっとっと」と全員でたたらを踏む場面で一人だけ目立っていたのは手先の美しさか。長塚圭史や松尾スズキの芝居で観てはいるけど、こんなに小劇場っぽい芝居にはまる人だとは思わなかった。白石加代子が妖怪の役なのは想定通りかつ期待通りなので、もっと出番がほしかった。かわりに複数役で気を吐いていたのが池谷のぶえで、落着いた役を任せてもよし、飛び道具を任せたらなおよし、こんなにいい役者だとは思わなかった。で、主人公を演じた佐々木蔵之助が上手いけど渋すぎて、前半の地味の半分はこの人に由来するので、正直、手塚とおると入替わった逆バージョンが観たかった。

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パラドックス定数「蛇と天秤」シアター風姿花伝

<2018年10月13日(土)昼>

大学病院の医師にして準教授が、若手の医師と一緒に翌日の公開講座の練習を行なっている。そこに製薬会社の営業担当と、制止を振りきって製薬会社の研究員が乗り込んでくる。半年前に8人の若い患者が亡くなり、その製薬会社の看板薬が理由だと決め付けた論文を準教授が発表したが、他の病院ではそのようなことにはなっていないため、何度目かの「話し合い」に来たのだった。ちょうど時間の空いていた医師は応対しようといい、立場が弱いはずの営業員もいつになく食い下がる。

それぞれ手持ちの隠していた情報を少しずつ出すごとに、製薬会社3人医師3人の立場と意見が目まぐるしく入替わるスリリングな展開は、脚本のお手本にしたくなる。名作になりそうなところ、そこでその台詞はないだろうがひとつ、その台詞を流すなよがひとつで、観ているこちらのトーンが下がって佳作に留まる。

前者は「お金は理想と現実の交差点」という、出典があるなら教えてほしい名台詞なのだけど、それを発言した人物はクレバーなので、そのとき開示されていた情報からどれだけ衝撃を受けていたとしても、その後の振舞を見ても、このタイミングでそんな発言しないだろうという違和感。後者は「案外簡単にできるんだよ」という台詞だけど、そんな簡単に出来るわけないだろうという突込みがほしかった。脚本でいえば傷はこの2箇所だけで、前者の台詞が出てくるまではものすごく食いついて観ていたのだけど、こういう緻密な脚本だと傷2つだけでも影響が大きい。

手元の当日パンフがすぐに出てこないけど、役者では医者側の講師役だったアフリカン寺越と、営業担当は阿岐之将一だったか。この2人の、言いたいことは山ほどあるけど話合いを穏便に収めるために何とかしようとする感じが緊張感を切らせないでよかった。逆に研究員の1人の宮崎吐夢と準教授医師の横道毅は、まだまだやれることあっただろうという印象。

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2018年10月12日 (金)

2018年の東京台風直撃の対応の記録

2018年9月30日の日曜日の出来事。自分は家でじっとしていたけど、こんなブログを後日読んでしまった。そのときに調べておけばよかった、こういうのはすぐに記録しないと消えてしまう、いそいで記録を残しておく、と考えながら10日以上経った記録が以下になる。

先に状況もメモしておくと、台風24号が首都圏に来ることは5日前くらいから予想されていた。ただしJR東日本が夜8時以降の電車をすべて止めると発表したのが当日の昼12時過ぎ。JR西日本が予告して止めるのは2014年以降何度かあったけど、JR東日本が予告して止めたのは今回が初。新幹線から山手線まで全線が対象。私鉄もその後、順次取りやめを発表して最終的には以下のようになった。NHKより。

・小田急電鉄は、全線で午後10時から順次、運転を取りやめました。
・東京メトロは、東西線の地上部分を走る東陽町と西船橋の区間で午後9時から運転を取りやめました。
・東京モノレールは、全線で午後10時から運転を取りやめました。
・京王電鉄は、全線で午後10時から順次、運転を取りやめています。
・西武鉄道は、全線で午後10時から順次、運転を取りやめました。
・東京臨海高速鉄道のりんかい線は、全線で午後10時半すぎに運転を取りやめました。
・多摩都市モノレールは、強風の影響で全線で運転を見合わせています。
・東急電鉄は、東横線と目黒線を最後に午前0時までに運転を取りやめるということです。
・都営新宿線は、大島と本八幡の間で、都営三田線は本蓮沼と西高島平の間で、日暮里・舎人ライナーは、全線でいずれも午後11時に運転を取りやめました。
・ゆりかもめは、午後11時すぎに全線で運転を取りやめました。
・東武鉄道は、日光線と伊勢崎線の特急列車の一部が運休しました。

ここで芝居の世界で幸運だったのは、正真正銘の月末9月30日でしかも日曜日だったこと。なぜなら
・商業演劇や国公立劇場主宰の芝居は、月単位で行なわれることが多いため、月末は上演がないことが多い。
・最近は「土日祝日で翌日が平日の夜の回」は客入りが悪いため、日曜日は昼公演だけのことが多い。10月1日の月曜日は平日のカレンダーで、これに当てはまった。
・渋谷方面はPARCO劇場が建替中、シアターコクーンはメンテナンス中で長期休演の最中。

ということで、被害を免れたところが結構多い。逆に小劇場があわただしかった。

全部を拾うのは無理なので首都圏メインで調べた。上演時間や終演時間は公式サイト、公式Twitter、シアターガイドの上演時間情報のどこかから拾ったもの。書いた事情はリンクがなければすべて推測。あとTwitterの時刻もメモしたけど「本日」と書かれているツイートが前日深夜に見えて、自分の調べた環境で時刻がずれて表示されたかもしれないので、Twitterの時刻は信用しないでほしい。

最初に国公立劇場編。
・国立劇場:月末未上演のためセーフ。
・新国立劇場:芝居は月末未上演のためセーフ。なおオペラは昼2時からの上演でセーフだったけど予定通り上演することを朝10時に掲載。そういうニュース掲載は残しておいたっていいのにすぐに消されてしまったので困る。一応手元のコピーを案内文のサンプルとして載せておく。

本日、9月30日(日)の公演は、予定通り上演いたします。

台風により交通機関にも影響がでる可能性がございますので、お出かけの際は予め運行情報をご確認の上、十分余裕をもってお気をつけてお出かけください。

9月30日(日)の公演

●オペラパレス

オペラ「魔笛」関連企画「ウィリアム・ケントリッジ スペシャルトーク」 (14時開始)
※変更がある場合はこのニュースにてお知らせいたします(9月30日10時現在)
お問い合わせ:新国立劇場03-5351-3011(代表)

●中劇場

NBAバレエ団公演『リトルマーメイド』(12時/15時開演)

(最新情報は公演名をクリックして、主催者のウェブサイトにてご確認ください)

・東京芸術劇場:芝居は三輪明宏が夕3時と、招聘劇団が昼2時でおそらくセーフ。ただし表で開催していた大道芸は16時からの公演終了後、以降の公演を中止と前日23:18に発表。劇場も夜7時で閉館ほぼ同時刻に発表
・世田谷パブリックシアター:世田谷パブリックシアターは休演日でセーフ、シアタートラムは無名塾の「かもめ」千秋楽だったけど昼2時からの回だけなのでセーフ。
・座・高円寺:イタリアから招聘公演の「フランドン農学校の豚」を上演中だったけど昼2時の回だけなのでセーフ。
・神奈川芸術劇場:主宰の「華氏451度」は上演中だったけど昼2時からの公演のみでセーフ。ただし招聘公演だったアメリカのウースターグループ「タウンホール事件」が昼2時夜6時公演で、前日から上演予定ただし各公演の開演3時間前に再度発表すると掲載、その後当日昼3時に夜6時の回を上演ただし払戻しありと発表。元々前後3日間しか上演予定がなかったスケジュールなので振替ようがなかったものと推測。
・さいたま芸術劇場:事前に、雨天か否かに関わらず発表は当日朝11時にHPにて連絡と掲載。世界ゴールド祭の最中で、劇場では2つ、「病は気から」夕4時からの休憩なし2時間半と、海外ダンス「フロック」が夕4時から1時間がスケジュール。これは変更なしと前日22:29にアナウンス。またよりによって野外劇の「BED」上演中で昼1時半夕3時半の2公演をスケジュール。こちらは夕公演のみ3時からに変更して上演。もともとチケットを前売しておらず、上演に要する時間も35分と短い特殊な公演ため可能だった対応。

商業演劇方面
・歌舞伎座、新橋演舞場、日生劇場:月末未上演のためセーフ。
・帝国劇場:ジャニーズの「DREAM BOYS」千秋楽だったけど昼12時からの公演のみだったのでセーフ。
・シアタークリエ:東宝の「ジャージー・ボーイズ」上演中。当日は昼1時夜6時のうち夜の回を中止、同じ会場の公演期間に余裕がないためもともと予定していた神奈川県民ホールで空いている11月10日(土)夜に振替。ただし席は主宰者に一任、増えた席は追加一般販売させてくれとのこと。また払戻しも受付。会場が狭くならなかった分だけ主宰者に運があった。
・東京宝塚劇場:花組「MESSIAH(メサイア)-異聞・天草四郎」上演中。昼11時夕3時半の公演で、この夕方の回が貸切公演に当たっている。どういう対応だったかは不明。ちなみにもっと台風に近かった本家宝塚大劇場の月組公演は夕3時の公演を中止して払戻し。これは翌日昼が千秋楽で、しかも娘役トップの愛希れいか退団挨拶(この後の東京公演で退団、本家ではこの公演が最後)まで組まれていたので、翌日夜は空いていてもいまさら追加はできずに中止判断したものと推測。
・シアターオーブ:東宝の「マイ・フェア・レディ」千秋楽だったけど昼12時からの公演のみだったのでセーフ。
・サンシャイン劇場:東宝の「文豪ストレイドッグス 黒の時代」上演中で、前日夜5時時点では上演すると言っていたものの、JRの運休を受けて公演中止と払戻しで対応。会場はあと1週間あっても、休演日と千秋楽を除いて夜公演が埋まっていた。その休演日も2日後の10月2日なので振替公演を組みたくても出演者やスタッフの調整時間も足りなかったものと推測。千秋楽の夜はその後に大阪公演が控えてバラシ、移動、仕込み、場当たりまでの時間を考慮すると余裕がなくてこれも振替公演を組めなかったと推測される。
・赤坂ACTシアター:乃木坂46で「美少女戦士セーラームーン」千秋楽で昼12時夜5時の公演あり。前日22:53時点で上演決行、ただし払戻し受付の発表あり追加2追加3)。6月と9月に分けた公演の大千秋楽なのでいまさら1ステージだけのための振替公演もままならず、かつこの公演だと熱心なファンが遠方から宿泊付きでやってくる可能性もあり、払戻しを用意したものの上演決行したと推測。ただし上演予定時間は2時間50分なので、終演後には赤坂から地下鉄には乗れてもそこから先のJRは一切乗れなかったはず。
・六本木EXシアター:PARCO制作で黒柳徹子の「ライオンのあとで」上演中だったけど昼2時からの公演のみだったのでセーフ。
・大阪公演で梅田芸術劇場を見つけたので追加。「ナイツ・テイル-騎士物語-」を上演していて夜6時の回だけというスケジュール。これは上演中止して期間中の10月8日(日)夜に振替。同じ会場なので席は同じ座席を利用。併せて払戻しも受付。

最後に小劇場編。代表して本多劇場グループで拾ってみる。千秋楽が重なっていた模様。
・下北沢本多劇場:加藤健一事務所「Out of Order」上演中だったけど昼2時からの公演のみだったのでセーフ。
・ザ・スズナリ:あひるなんちゃら「あじのりの神様」千秋楽で昼2時夜6時というスケジュール。電車停止を受けて夜の回のみ夜5時に繰上げTwitter1Twitter2)。上演時間80分予定の芝居だったためそれなら収まると判断した模様。あわせて当日券の予約をストップ、夜予約の人が昼に来ても入れるように受付準備した模様。これは後日談があるので後述。
・駅前劇場:ふくふくや「真実なんてクソくらえ」千秋楽だったけど昼2時からの公演のみだったのでセーフ。なお上演時間は1時間45分とのこと。
・OFF・OFFシアター:異魂「墨牡丹」千秋楽だったけど昼2時からの公演のみだったのでセーフ。
・劇「小劇場」:T1project「ショートストーリーズ vol.8」千秋楽だったけど昼12時夕4時の公演だったのでセーフか。上演時間不明。
・小劇場楽園:劇団チョコレートケーキ「ドキュメンタリー」千秋楽で昼12時夜5時を決行。なお上演時間は80分とのこと。
・シアター711:TAAC「を待ちながら。」千秋楽で昼1時夜5時だったのを決行。なお終演時間を6時45分と告知
・小劇場B1:佐藤貴史presents「喧嘩ウォーズ」千秋楽で昼2時夜5時を決行。終演時間を6時半と案内、あわせて当日券を前売価格で販売すると告知

これだけたくさん見ると対応の基本パターンが見えてくる。国公立劇場や商業演劇の場合は以下の3つのどれか。
(1)可能であれば振替公演+無理な人には払戻しをセット用意。この場合、振替先の会場が同じまたは近場で、かつ日程が似ている(夜なら夜公演、週末なら週末)ところで、かつ他の日程に悪影響を与えずに用意できるのが条件。週末だから行けるのに平日に振替えられても無条件で無理、という人は大勢いそうなので、わかる。
(2)振替先が用意できない場合その1として、潔く中止して払戻し。特に今回は日程以外の理由でも千秋楽の夜に追加できない宝塚の例もあって非常に参考になった。
(3)振替先が用意できない場合その2は、上演決行して無理な人には払戻しをセットで用意。今回は神奈川芸術劇場と乃木坂46のセーラームーンが該当。

ここに4つ目、5つ目の選択肢が出てきた。
(4)時間を繰上げて上演。これも帰宅に要する時間も含めて、繰上げて収まるであろうという前提。あひるなんちゃらと「BED」が該当するけど、「BED」は前売チケットなしで屋外公演という特別条件なので外す。
(5)決行+払戻し告知なし。今回だとさいたま芸術劇場の「病は気から」と、佐藤貴史presentsとTAACのケース。終演時点で、埼玉の与野本町で1時間30分、下北沢で1時間30分または1時間15分あるという条件。

上演する側と観客側とで理想が(1)なのはわかる。それが無理な場合に他のどの選択肢を取るのかが問題になる。先に自分の考えを書くと(3)より(2)。突然のトラブルと、事前に予想できるトラブルへの危機管理は結果オーライではなく最大限安全に振ってそれが空振りに終わってもよしとするべき、という発想による。もっとも今回に限っては首都圏では初の予告運休しかも当日アナウンスなので突然のトラブルと言ってもいい。あと自分が帰るのは東京都外で案外時間がかかるため、上演決行された場合に帰れなくなるなら観にいけない、いっそ中止してもらったほうがすっきりするという個人的な都合もある。

残り2つのうち先に(5)の対応について書くと、終演予定時点で3時間、譲っても2時間切っていたら払戻しも対応するべきだと考える。知人への手売や当日精算が多くて1時間あれば帰れる近隣の人ばかりと判断できたのかもしれないし、劇場の規模を考えると連絡が来た客には個別に対応したかもしれないけど、払戻しも発表して受付けるべきだったというのが自分の意見。さいたま芸術劇場も当日昼からでもいいから払戻しは用意されるべきだった。世界ゴールド祭りはほぼアマチュアかつ年寄りが出演するという特殊な条件の公演なので予想される客層も含めて急遽変更するほうましと判断したのか、大宮か武蔵浦和からどの方面でも帰れるだろうと判断したのか、不明。

そして(4)の対応。これは、近場だから帰れる、遠方だけど当てがあるから大丈夫、などと判断して時間通りに来た客が観られなくなって、払戻しとは別の問題が発生する可能性がある。やってはいけなかったというのが自分の意見。

あひるなんちゃらの主宰ブログで今回の判断について説明していて、過去に台風で似た状況でもお客さんが来てしまった、という経験に基づいて、中止はしない方向で判断したとのこと。

まさか電車が問答無用で止まるとはね。
最終日の夜の回は、見に来たら帰れなくなっちゃうような時間になりそうだったので、開演を早める、という決定をさせてもらいました。我々は帰れなくてもいいけど、さすがにお客様が帰れないのはどうかと思ったので。

私も、一瞬、中止にしようかと思ったんですけどね。まあでも、あれなんですよ、中止にします、って言ったところで、全員見に来ない、ってことはないと思ったんですよ。前にも1回、台風が公演に直撃したことがあって、その時は、今よりだいぶ小劇場のことを知らなかったので、電車止まってんじゃんもうこれ誰も来ないでしょ、って思って、かといって劇場から帰れるわけでもないので、なにか対応も考えるでもなく、みんなでのんびりしてたら、普通にお客様がいらっしゃって、どうやって来たのかわからないけど、じゃあやるか、みたいな感じで本番をやったことがあったんですよ。だから我々レベルの公演においては、中止にしてもあんまり意味がない、と判断した次第です。

開演時間を早めたことで、逆に見に来れなくなっちゃったお客様には本当に申し訳なかったのですが、こういう事態だったので、ご容赦いただければな、と思います。

何人かは観に来る客がいるから上演する、というのはわかる。でも開演時間を繰上げたら、予定通りに観に来た客に無駄足を踏ませることになる。観に行けなくなったとわかった客はまだよくて、公式サイトやTwitterに当日情報を載せたとして、それを見てもらえるとは限らないし、見た時点では掲載が間に合っていないこともありうる。観に来た客が激怒したらどういう対応を取るつもりだったんだろう。

だいたいチケットの裏面には、「興行中止以外の払戻し、振替は行なわない」という記載と同時に「指定した日時の回のみ有効」という記載がある。前者の記述は(3)のケースに反して払戻しているけど、客に有利に振った判断なので文句は出ないはず。少なくとも払戻しがないなら無理して出かけるという客を減らして惨事の可能性を減らせる。でも後者の記述は、客も縛るけど上演側も縛る条件で、トラブルで開演が遅れるならともかく、前倒しされて観られないのでは、大げさに言えば訴えられてもしょうがない。そこに公演規模の大小は関係ない。前売に一般客はいなくて直接謝ることができる知人だけだった、という前提があってもぎりぎり選択肢に乗ってくるくらいのリスキーな判断で、そこで結果オーライを狙うものではない。

と振返って、上演側にとってどういう判断と行動が適切だったかを考える。

まず運休の案内については、今後改善される見込み。ブログを書くのが遅れたのでそんな記事が出てきた。Yahoo経由で毎日新聞より。

 国土交通省は10日、9月末に日本列島を縦断した台風24号に備えて鉄道各社が実施した「計画運休」などの対応を検証する会議を開いた。会議には鉄道22社が出席し、計画運休について「安全確保の上で必要」との認識を共有した。一方で、首都圏の一部路線で運転再開が遅れ、利用者が混乱したことから、情報の提供方法の改善が必要との声が相次いだという。国交省は今後の運行の参考になるよう、12日をめどに各社の意見を集約する。

 会議は非公開で行われ、国交省鉄道局によると、JR6社と首都圏や関西圏などの私鉄16社が参加した。台風の進路予想に基づき、東武、京成、京急、西鉄を除く18社が9月30日午前から運転本数を減らし、夕方以降、全面運休するなどの対応を取った。JR東海は同日午後5時以降、東海道新幹線で全面的な計画運休を初めて実施した。

 運休の情報提供については、JR西日本とJR東海、南海、京阪が29日から具体的な運休時間帯を周知したのに対し、JR東日本を含む首都圏の各社は当日の30日になって周知した。新幹線や関西方面では混乱が少なかったが、首都圏の利用者からは「もっと早く知らせてほしかった」と不満の声も出た。鉄道会社からは「運休の可能性がある段階でも周知すべきだ」「自治体にも情報を提供することが必要」といった意見が出たという。

 台風が通過した10月1日朝は、安全点検や線路への倒木や飛来物のため、JR中央線など首都圏の一部路線で運行再開が遅れた。通勤時間帯にも重なり、乗客が駅内外にあふれたことから、JR東が32駅で入場規制を実施するなど各社は対応に追われた。鉄道会社からは「安全を確認した上で運転を再開する方針だったが、多くの乗客に『始発から通常通り運転する』と受け止められていた」との反省の声が出たという。

なので、今後はアナウンスが前日のうちに発表されることが期待できる。関西の鉄道会社が前日からアナウンスしていたのはこの記事であらためて気がついて、商業演劇のケースで本家宝塚と梅田芸術劇場が中止や振替を決めたのは、運休慣れしていた関西の鉄道会社が前日に判断していたので客への周知も含めて時間が取れた、という理由もありそう。

それを受けていつ告知するか。前日に判断できればいいけど、台風は進路が読みにくいので、実際の判断は当日になるはず。でもそれだけでは無理があるので、前日の時点で「当日X時に決定」と告知しておくのがよい。その上で当日X時に判断して告知するのが理想。もし複数回公演があっても一括で発表する。このX時を何時にするかが問題で、交通機関が運休を前日に発表してくれたらそれを受けて前日に即時発表でいい。でもそうならない場合、神奈川芸術劇場のように3時間前では遠方の客に余裕がなさすぎる。気象庁の天気予報は朝5時、昼11時、夜5時の3回更新が基本で、交通機関はそれを見て判断するはず。今回のJR東日本が昼12時過ぎに発表したのは昼11時の天気予報を見て決めたのだと思う。発表は朝のうちにしておくのが遠出になる客には望ましいので、5時の天気予報を見て交通機関が運休を考えて発表するまで2時間ちょっとの猶予を見ると、朝8時には関係者で対応を確認して、8時半から9時に発表するつもりで準備するのがよい。

あと告知の手段。国公立劇場や商業演劇は、公式サイトを随時更新していて、こういう点は人手の多い組織のいいところ。小劇場は今回公式サイトを探したけど、更新されていた気配はなくて、たいていTwitterを告知に使っていた。人手もないだろうし手間を考えるとTwitterを使うのは分かるのだけど、それであれば公式サイトに前日のうちに「上演予定は公式TwitterでX時に発表します」と書いて公式Twitterのリンクを載せておいてほしかった。それなら客もそちらを確認できるし、制作者も公式Twitterの更新で済む。トップページと公演ページの両方に記載されているとなおよい。今回Facebookまでは確認しなかったけど、TwitterがFacebookでも事情は同じ。最近は当日券情報などもTwitterで発表することが一般的なようだけど、サイトがあるならサイトのほうが公式度は高いので、そこから辿れるようにしておくのは本来必須。

そして肝心の対応は、事情に応じて(1)(2)(3)のどれか。(1)が最上、(2)でも客が劇場の往来で往生したり、最悪劇場に閉じ込められて一緒に一夜を過ごすことになるよりはまし。どちらもかなわないなら(3)もある。状況の変化によっては(3)のつもりが(2)になることもあるかもしれない。でも、どのケースも払戻しは覚悟して準備する。上演決行するなら上演時間はずらさない。あと規模が大きいと強引に来場する客の数も増えて対応もトラブルになる可能性も指数的に増えるので、1000人を越えたら中止に振るべきで、1万人を越えたら中止必須。芝居だと滅多にないけど。

調べた内容ここまで。今後の資料として活用されたら幸い。

あと今回調べてもわからなかった内部事情で気になることもメモ。
・公演中止になった場合、保険を掛けていたら下りるのか。契約によって人災オプションとか天災オプションとかがあって、天災オプションを付けていた場合のみ保険が支払われるようになっているのか。
・千秋楽で帰れなくなりそうな場合、あるいは帰れなくなった場合、バラシは明日で追加費用も請求しないから早く帰ろう、と劇場で事情を汲んでくれるのか。劇場スタッフだって帰りたいだろうから、翌日の劇場利用予定が空いていて、上演側の都合もつくようならそんな提案もできそうだけど、どうだったか。
・劇場内の夜公演がなかったとはいえ、大道芸を中止して、夜7時に閉館することを決定した東京芸術劇場の判断と手際のよさが目立つ。副館長の関与が推測されて気になる。この決定にいたる経緯と、あるなら普段のシミュレーションについても、参考事例としてぜひ公開してほしい。

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2018年9月26日 (水)

シス・カンパニー企画製作「出口なし」新国立劇場小劇場

<2018年9月23日(日)昼>

扉がひとつだけで窓もなく、椅子と明かりとささやかな調度品だけが置かれた部屋に、3人の男女が連れられて来る。一度閉まると扉は内側から開かない。どうやら死んだ魂が案内されてきたようだが、なぜ集められたのかがわからない3人は、互いに自己紹介しながらその理由を探っていく。

こういう芝居だと大竹しのぶが俄然映える。ねちっこい台詞回しもそうだけど、多部未華子に迫るときのあの興奮の仕方の危なさがすごい。その向こうを張る段田安則は「ヘッダ・ガブラー」もそうだったけど、あの声は悪い場面に実に似合う。多部未華子は見とれるような完璧な横顔で綺麗なだけではない綺麗どころの役を熱演。「オーランドー」より出ていた声がよい感じだけど、発声お化けの2人に対抗するにはあと一歩。

観終わって、これだけ密度が高い芝居なのに80分しか経っていなかったのがまず驚き。世の中の芝居は長すぎる。結構激しい言葉が飛交っていたけどそれでいて全然台詞が立っていなかったのがまた驚き。あの台詞を全部消化して自分のものにしていたってこと。その後ろには翻訳含めてここまで整理した演出の腕があるだろうとは推測がつく。理屈が必要とされる西洋芝居の演出が小川絵梨子は本当に上手い。

ちなみに三度目の正直でようやく当日券を入手。人気者が出るにはせまい劇場なので当日券の枚数が少ないことはしかたないにしても、並んだ順の当日券販売でキャンセル発券ゼロ枚は長い当日券歴でも史上初の経験。キャンセル待ち番号すらもらえずに説明で事前に帰される人が10人以上。同じシス・カンパニーの「子供の事情」とは規模が違うけど、それでも毎回抽選にしたほうがよかったのではないか。

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2018年9月25日 (火)

松竹製作「俊寛」歌舞伎座

<2018年9月22日(土)夜>

平家を相手に謀反を企てたとして同士2人と一緒に島流しにあって3年の俊寛。同士の1人が島の娘と夫婦になると紹介に連れてきて、一同はめでたいと祝宴の真似事をする。そこに都の使者がやってきて、恩赦で3人を都に連れて帰るという。喜んだ3人は島の娘と一緒に船に乗ろうとするが、恩赦で連れて帰るのは3人だけであると使者が断る。押し問答の末に俊寛が取った行動は・・・。

一幕見席で見物。吉右衛門の当たり役とのことで、3年経って娑婆っ気の抜けた俊寛が、都に帰れる望みを見つけたとたんに見も世もなく使者に取りすがる場面の「みっともなさ」のリアリティはさすが。ただ、他がいかにも歌舞伎調な中で、リアルな演技を頑張るほどに吉右衛門が浮いて見えるのが難。これが統一した演出のない歌舞伎の悪いところ。その点、調子は全体に整っていた昼の「河内山」のほうが自分は好ましいと考える。

舞台は一幕で、これは乗り付ける船であったり、最後に盆を回して海を広げて孤島の感じを出したり、花道まで波を敷いたり、美術の出来も転換も「河内山」よりこちらのほうが圧倒的によい。最後の海の広さは1階席より2階以上のほうがより効果的に見えたのではないか。

ちなみに席取りの意味もあって「松寿操り三番叟」も見物。後見の役者が操り人形役の役者を操っている、という想定の舞踊。幸四郎の踊りもよかったけど、操る役の吉之丞が半身で足拍子を取る姿が格好良かった。

今回は昼夜とも一幕見席で観たけど、4階席でもセリと舞台は全部見えるので、いろいろ文句はあってもあの値段なら有名どころの芝居を試してみるのにいいかなと思えてきた。

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2018年9月21日 (金)

小田尚稔の演劇「聖地巡礼」@RAFT(ネタばれあり)

<2018年9月16日(日)夕>

大学時代の後輩の結婚式に呼ばれた女性が、青森まで出かける。ドレスの入ったかばんを高速バスに忘れたり散々だったものの、無事に結婚式は終わって、突然思いついた恐山への1日がかりの旅行を強行する。後輩は、先輩との思い出や夫との馴れ初めを語る。

これまでは行き詰った個人が、小さい、けど大事な希望を見つけるような展開につなげていた芝居だったけど、今回はより暗い方向に。トラブルはあったものの恐山の旅を満喫する先輩女性が観察する周囲の旅行客は、様子がただならない人ばかりで、供養を頼んだり、エリック・クラプトンのそっくりさんを見つけたり。一方で後輩女性には学生時代に知り合った夫とのエピソードで社会人になったばかりのころが一番幸せだったと語らせたり。クラプトンの自伝からも引用して、これだけ並べれば分かるだろという状態にして、最後に後輩から幸せな葉書が届いて、今後を暗示して終わる。引出物の風鈴の音を登山の杖につける鈴の音と重ねる見立てが効果的。

後輩女性が青森出身のはずなのにあまり青森に詳しくなさそうな様子とか、ドレスなしで結婚式に参加したはずの先輩女性の様子を描くのを端折るとか、この芝居なら語尾をもたつかせる台詞回しは減らしたほうがいいのではないかとか、ミラーボールの照明を音響が手伝うのはアイディアではあるけど回すのは諦めて転がした照明から照らせばいいのにとか、細かいところで瑕疵はある。けど観終わった感想として、こういう芝居は嫌いではない。暗い話が好きというのではなく、とにかく情報は出すけどつなげるのは客の頭の中でやらせる話。あと「聖地巡礼」とタイトルをつけたセンスも好き。使ったクラプトンの曲が有名すぎる(これまでも有名な曲を使うことが多い)のが難だけど、あの内容ならもう直球でしょうがないかとも思う。

ギャラリーを使った会場で、奥から外を見る形で客席を組んで、役者は正面入口と脇の通用口を使って会場外から出入りするという変則舞台。あれは雨のときはどうするつもりだったのだろう。観たのが夕方の回で外が明るかったため、通行人や車が目に入るのだけど、あれは通行人を恐山の幽霊に見立てたか。夜だともう少し怪しい雰囲気になったかも。

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グループる・ばる「蜜柑とユウウツ」東京芸術劇場シアターイースト

<2018年9月15日(土)夜>

独り暮らしの自宅で頭を打って亡くなった茨木のり子。その自宅に、のり子の甥と編集者がやってくる。亡くなる前に出版を頼みたいと伝えられたが原稿をもらっていない編集者が、相続して私物の整理をしている甥に頼んで調べさせてほしいという。甥も協力的ではあるが自分では見つけられなかったという。ところでのり子は、心残りがあって幽霊として自宅に残っているが、何が心残りだったかを思い出せない。自宅の管理人と称する幽霊が、通りがかりの幽霊を呼込んで、心残りを思い出す手伝いをしている。

初演を見逃したら評判がよかったので観劇。戦争や結婚や同人誌の活動など、茨木のり子の人生のイベントをある程度はなぞっているけど自伝というわけでもなく、と言って詩をたくさん引用して構成するわけでもなく、きちんと生活しつつ詩人としても活動したその心構えを得たり揺らいだりした転機やバックボーンを調べて追いかけて想像してみました、という一本。すごく地味だし、最近の流行りのように反戦の話が挟まったりして、お勧めする場面がほとんど思いつかないのだけど、その割にはあれ、結構よい芝居だったかも? という不思議な舞台。

よい芝居に思えた理由のひとつは、何と言っても主催を差置いての木野花。親友役で出てくるのだけど、これが抜群に格好いい。格好よくない場面がひとつもない。茨木のり子との初対面の場面で芸術家の生き方をやり取りする場面は「お勧めする場面がほとんど思いつかない」この芝居の中で数少ない見せ場のひとつ。あともうひとつの理由は、おそらくマキノノゾミの演出。どこがどうとは言えないけど、舞台全体にある種の統一された雰囲気が満ちていて、これでおそらく2段階くらい質が上がっていた。たまにはこんな芝居もいい。

他の芝居との兼合いでこの回を選んだらアフタートーク付き。制作を司会進行に、マキノノゾミと松金よね子と岡本麗と田岡美也子が登場。思い返してのメモだけど間違っていたらご容赦。

<アフタートークここから>

司会:3人は着替えてから登場なので先にマキノノゾミさん登場です。一度ご一緒したくて、私や3人も含めてライブに押しかけて演出を依頼しました。る・ばるでは依頼したい人に大勢で押しかけてお願いする、ということをよくやっています。
マキノ:親父バンドをやっているのだけど、その宣伝のために「俺の弱みを握りたいやつはライブに来い」と言いふらしているので、そこに押しかけられたら断れない(笑)。
司会:茨木のり子さんのことはどの程度ご存知でしたか。
マキノ:全然知らなかった。演出を依頼されたときはまだ脚本がなかったので、詩集を読んだり、評伝を読んだり、自宅の写真を眺めたり。まだ自宅が残っていて、今回の舞台は実際の自宅を元に作っています。小さいのだけど小奇麗で住みやすそうで、本人がしのばれるような家です。

司会:3人登場です。る・ばるを実際に演出してみた感想はいかがですか。
マキノ:何と言うか、部活みたいな感じで(笑)。基本的なところからいろいろと。
田岡:お菓子を食べていたら「台詞を覚えてから菓子を食え」とか(笑)。
松金:「休憩時間が終わってからトイレに行くな」とか(笑)。
司会:いろいろご迷惑をおかけしました(笑)。る・ばるに初参加していただく方にはどのくらい寄り添っていただけるかがいつも心配なのですが。
マキノ:それはもう寄り添って奉仕しました(笑)。
松金:介護体験のような(笑)。

司会:茨木のり子を取上げた経緯を。
松金:「倚りかからず」という詩集を読んで、そこから他の詩集も読んで、これは芝居にできないかと軽い気持ちで提案しました。ただ主催の3人を全員茨木のり子にするのは難しく。
マキノ:脚本の長田さんがどういう話にすればいいかすごく悩んでいたら、永井さんが「お化けはどう」と提案してくれて、そこから脚本が始まりました。
司会:永井愛さんには度々お世話になっています。
松金:そのときも一緒にお茶を飲んでいたのですが、「お化けにしちゃえばいいじゃん」と言ってくれました。
マキノ:「前世がヤモリ」って(岡本の)台詞は本人が信じている「実話」だから迫真の演技でしたね(笑)。
岡本:私、前世がヤモリなんです(笑)。
マキノ:それを聞いた長田さんは目が点になっていましたけど(笑)、あそこから一気に脚本が進みました。
司会:この脚本を演出してみていかがだったでしょうか。
マキノ:演出するときは「自分が一番この芝居が好きだ」という気構えで演出しますから。いや結構大事なことですよ。

司会:初演と比べて今回の出来はいかがでしょうか。
マキノ:初演より今回のほうが出来はいいです。
司会:初演を観た人はどれくらいいますか(会場半分くらい挙手)。
マキノ:結構いますね。
司会:やはり「今回再演を観て、初演では気がつかなかったよさに気がついた」と言ってくれたお客様がいたのですが、脚本は何も変えていないんですよね。
マキノ:同じです。
司会:出演していた立場からは。
田岡:初演のときは(台詞を)入れて出しただけで終わりました。今回脚本を読んで初めて気がついたことが多いです。
松金:今回は再演の心構えも教わりながら進めました。
マキノ:再演だから前回できたところまではすぐに到達する、そこからどれだけ伸ばせるかが再演の勝負です。若い劇団だと初演のほうが勢いがあって面白かった、となることが多いけど、今回は再演のほうがよかった。
司会:あまりそう言われると初演を観た方に申し訳がないので・・・。
マキノ:初演もよかったけど今回はもっとよかった(笑)。
司会:あまりSNSで拡散しないでくださいね。

司会:最終公演とした経緯を。
松金:フランス映画で「母の身終い」というのを観たら、内容はまったく関係ないのですけど「身終い」という言葉が気に掛かるようになって。今のうちに身終いしたほうがいいと考えて最終公演としました。
岡本:私はこれから終活で(笑)。もうこの芝居が終わったら私生活も身終いで(笑)。
田岡:私は実はまだ続けたかったし、続けられると考えていました。ただそのまま続けて、飽きられて忘れ去られて「まだやっていたの」と言われるくらいなら、この作品で終わりにするのはありだと考え直しました。
司会:期せずしてマキノさんに解散公演の演出を依頼することになってしまいましたが、これで責任感など感じられてしまうと・・・。
マキノ:ない、微塵もない(笑)。みなさん止めることを深刻に考えすぎですね。私は止めることに結構縁があって、自分の劇団も解散していますけど、別に明日から死ぬわけでなし(笑)。る・ばるが解散しても皆さんは役者として続けていかれるのですし。劇団なんてやっていると何年先の公演予定が入って、そこまで病気もできないとか、いろいろ不自由なこともあるでしょう。そもそもきれいに止められる集団なんてほとんどないのだから、こんなに上手に止められるなんてむしろめでたいことですよ(笑)。

司会:この後、年内はツアーを行ないますが、来年になったら何をしますか。
松金:木野花さんを加えて4人でユニットを立上げる?(笑と拍手)
司会:そのときはぜひ私も。
マキノ:木野花さんもねえ。ご自分が演出なさるときは知的でチャーミングな方なんだけど、役者のときはどうして・・・(笑)。
松金:る・ばる化していましたね(笑)。
マキノ:最初にこの仕事を引受けたときは木野花さんがいると聞いて頼みにしていたんだけどねえ(笑)。
司会:る・ばるに参加する方はる・ばる化する傾向にありますね。
マキノ:そういう自分も森に迷って稽古に遅刻しましたけどね(笑)。森で迷うって旅行か(笑)。

<アフタートークここまで>

あんまり書かないでとは言っていたものの、別にそこまで悪い話でなし、こんな弱小ブログでは気にしない。木野花の話で拍手まで起きたのは、やっぱりあの仕上がりのよさを認めた観客が多かったのだと確認。その裏ではいったい何があった。

マキノノゾミは想像していたよりも大きい図体がくねくね動いて、何か近藤良平のように、身体に不思議な色気のあるおっさんだった。ちょっと正確な言葉を失念しましたが「自分が一番この芝居が好きだという気構えで演出する」の下りはいいですね。このアフタートーク一番の収穫です。

<2018年9月24日(月)追記>

東京千秋楽で千秋楽で岡本麗が舞台から転落したとのこと。本家サイトより。

本日、東京芸術劇場シアターイーストにて14時開演の千穐楽におきまして、芝居中盤で出演者の岡本麗が舞台から転落致しました。しばらく様子を見ましたが、早々の再開続行は不可能と判断し、残念ながら公演中止とさせていただきました。
ご来場くださったお客様には、事情をご説明してお詫び申し上げ、その場で可能な限りご返金の対応をさせていただいております。尚、一部プレイガイドにてご購入くださったお客様のみ、後日の手続きということでご連絡先を伺っております。
大方のお客様には対応が完了したかと存じますが、もしもまだお手続きがお済みでない方がいらっしゃいましたら、プリエール 03-5942-9025(土日祝日を除く11時~18時)までお問い合わせください。
※尚ご返金の対象は、本日のご来場が確認できているお客様に限らせていただきます。

岡本は検査の結果鎖骨骨折とのことで、幸いそれ以外に異常はなく、若干の不自由はあるものの今後の地方公演は予定通り上演させていただきます。
さよなら身終い公演の東京公演千穐楽という日に、このような事態になってしまい誠に申し訳ございません。またご来場くださったお客様に振替公演のご提案もできず申し訳ありません。
今回の事態を踏まえ、スタッフ・キャスト一同、改めて作品と向き合って参りたいと存じます。
何卒ご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

舞台手前はもちろん段差があるけど、激しいアクションのある芝居でもなし。舞台中央の階段はあるけど場転で出はけに使わないといけない舞台構造でもなし。そもそも岡本麗は階段を使う場面もほとんどなかったと記憶しているけど、どの場面でどこに落ちたんだろう。

1年前にはシアターウエストで病死からの転落があったし、不謹慎ながらまさかひょっとして茨木のり子の亡くなり方をなぞって身終いかと想像したので、こういっては何だけど骨折止まりで何より。

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遊園地再生事業団「14歳の国」早稲田小劇場どらま館

<2018年9月15日(土)昼>

とある中学校の3年生の教室。体育の授業中で生徒はいないが、教師が集まっている。中学生が最近起こした事件に触発されて、生徒を理解し危険を防ぐための持物検査を行なうためだ。ただし生徒には伝えられておらず、反対の意思を示した一部の教師にも内緒で行なわれている。授業時間内に終わらせないといけないのだが、教師の間で息が合わず、なかなか検査ははかどらない。

ネタばれしすぎたらつまらないので大雑把に書くと、いわゆる酒鬼薔薇事件を背景に、すでに大人になって長い教師から見た中学生のわけのわからなさと、そんな事言ったって大人のほうがわけがわかっていないではないか、という話。ある教師から話題が出たら、他の教師が必要以上に混ぜっ返していくあたりの展開は不条理劇っぽいラインぎりぎりを責めつつ、最後に不条理劇で一気にもっていく展開は見事。

ただその見事さ以上に、これが20年前の芝居とはとても思えないところが意外。酒鬼薔薇事件なんてすでに今の中学生が生まれる以前の事件で、実際に芝居の中では直接言及はされていない。それにも関わらず、登場する教師たちの、自分達は生徒の持物をこっそり検査してもよいという発想と、それでいて後ろめたいことをしている自覚と、なのに誰も止められないという展開。あれは舞台が中学校以外でも、今の日本として十分成立する。それを象徴するのがあのラスト場面とも言える。不条理劇なんだけど不条理に見えないというか、現実のほうが不条理というか。

教師役の5人がまた全員上手くて、特に疑わない筆頭の教師役の谷川清美の、近くに居そうな人物という雰囲気が、普通は上手いというと褒め言葉なんだけど、この芝居に限ってはそこに気持ち悪さが混じる。5人中唯一生徒寄りの美術教師役の踊り子ありは、こういう先生が居てくれたらもう少し救われる思わせつつ、あっさり生徒を裏切ったり、ラストの役回りも酷く、別の意味でわけがわからない大人の役が非常によかった。感想を無理矢理まとめると、丁寧で上等な後味の悪さを堪能させられた芝居。

ほぼ正方形の劇場に、一回り小さい教室を斜めに設置して座席を三方に配した美術は、どこから観ても見やすいというより、どこから観ても等しく損する場面がある模様。ただ思いっきりかさ上げされた舞台で、後列でも十分至近距離なので、前列よりは後列のほうがまだ見通しがよさそう。あと学校のチャイムから作った音楽がとてもよかったけど、それ以上に音響設備と音源がよかったのか、狭い劇場の音響がよかったのか、劇場ではこれまでで有数のハイファイな音響。いい音はいいものだと再認識。

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