2018年9月21日 (金)

小田尚稔の演劇「聖地巡礼」@RAFT(ネタばれあり)

<2018年9月16日(日)夕>

大学時代の後輩の結婚式に呼ばれた女性が、青森まで出かける。ドレスの入ったかばんを高速バスに忘れたり散々だったものの、無事に結婚式は終わって、突然思いついた恐山への1日がかりの旅行を強行する。後輩は、先輩との思い出や夫との馴れ初めを語る。

これまでは行き詰った個人が、小さい、けど大事な希望を見つけるような展開につなげていた芝居だったけど、今回はより暗い方向に。トラブルはあったものの恐山の旅を満喫する先輩女性が観察する周囲の旅行客は、様子がただならない人ばかりで、供養を頼んだり、エリック・クラプトンのそっくりさんを見つけたり。一方で後輩女性には学生時代に知り合った夫とのエピソードで社会人になったばかりのころが一番幸せだったと語らせたり。クラプトンの自伝からも引用して、これだけ並べれば分かるだろという状態にして、最後に後輩から幸せな葉書が届いて、今後を暗示して終わる。引出物の風鈴の音を登山の杖につける鈴の音と重ねる見立てが効果的。

後輩女性が青森出身のはずなのにあまり青森に詳しくなさそうな様子とか、ドレスなしで結婚式に参加したはずの先輩女性の様子を描くのを端折るとか、この芝居なら語尾をもたつかせる台詞回しは減らしたほうがいいのではないかとか、ミラーボールの照明を音響が手伝うのはアイディアではあるけど回すのは諦めて転がした照明から照らせばいいのにとか、細かいところで瑕疵はある。けど観終わった感想として、こういう芝居は嫌いではない。暗い話が好きというのではなく、とにかく情報は出すけどつなげるのは客の頭の中でやらせる話。あと「聖地巡礼」とタイトルをつけたセンスも好き。使ったクラプトンの曲が有名すぎる(これまでも有名な曲を使うことが多い)のが難だけど、あの内容ならもう直球でしょうがないかとも思う。

ギャラリーを使った会場で、奥から外を見る形で客席を組んで、役者は正面入口と脇の通用口を使って会場外から出入りするという変則舞台。あれは雨のときはどうするつもりだったのだろう。観たのが夕方の回で外が明るかったため、通行人や車が目に入るのだけど、あれは通行人を恐山の幽霊に見立てたか。夜だともう少し怪しい雰囲気になったかも。

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グループる・ばる「蜜柑とユウウツ」東京芸術劇場シアターイースト

<2018年9月15日(土)夜>

独り暮らしの自宅で頭を打って亡くなった茨木のり子。その自宅に、のり子の甥と編集者がやってくる。亡くなる前に出版を頼みたいと伝えられたが原稿をもらっていない編集者が、相続して私物の整理をしている甥に頼んで調べさせてほしいという。甥も協力的ではあるが自分では見つけられなかったという。ところでのり子は、心残りがあって幽霊として自宅に残っているが、何が心残りだったかを思い出せない。自宅の管理人と称する幽霊が、通りがかりの幽霊を呼込んで、心残りを思い出す手伝いをしている。

初演を見逃したら評判がよかったので観劇。戦争や結婚や同人誌の活動など、茨木のり子の人生のイベントをある程度はなぞっているけど自伝というわけでもなく、と言って詩をたくさん引用して構成するわけでもなく、きちんと生活しつつ詩人としても活動したその心構えを得たり揺らいだりした転機やバックボーンを調べて追いかけて想像してみました、という一本。すごく地味だし、最近の流行りのように反戦の話が挟まったりして、お勧めする場面がほとんど思いつかないのだけど、その割にはあれ、結構よい芝居だったかも? という不思議な舞台。

よい芝居に思えた理由のひとつは、何と言っても主催を差置いての木野花。親友役で出てくるのだけど、これが抜群に格好いい。格好よくない場面がひとつもない。茨木のり子との初対面の場面で芸術家の生き方をやり取りする場面は「お勧めする場面がほとんど思いつかない」この芝居の中で数少ない見せ場のひとつ。あともうひとつの理由は、おそらくマキノノゾミの演出。どこがどうとは言えないけど、舞台全体にある種の統一された雰囲気が満ちていて、これでおそらく2段階くらい質が上がっていた。たまにはこんな芝居もいい。

他の芝居との兼合いでこの回を選んだらアフタートーク付き。制作を司会進行に、マキノノゾミと松金よね子と岡本麗と田岡美也子が登場。思い返してのメモだけど間違っていたらご容赦。

<アフタートークここから>

司会:3人は着替えてから登場なので先にマキノノゾミさん登場です。一度ご一緒したくて、私や3人も含めてライブに押しかけて演出を依頼しました。る・ばるでは依頼したい人に大勢で押しかけてお願いする、ということをよくやっています。
マキノ:親父バンドをやっているのだけど、その宣伝のために「俺の弱みを握りたいやつはライブに来い」と言いふらしているので、そこに押しかけられたら断れない(笑)。
司会:茨木のり子さんのことはどの程度ご存知でしたか。
マキノ:全然知らなかった。演出を依頼されたときはまだ脚本がなかったので、詩集を読んだり、評伝を読んだり、自宅の写真を眺めたり。まだ自宅が残っていて、今回の舞台は実際の自宅を元に作っています。小さいのだけど小奇麗で住みやすそうで、本人がしのばれるような家です。

司会:3人登場です。る・ばるを実際に演出してみた感想はいかがですか。
マキノ:何と言うか、部活みたいな感じで(笑)。基本的なところからいろいろと。
田岡:お菓子を食べていたら「台詞を覚えてから菓子を食え」とか(笑)。
松金:「休憩時間が終わってからトイレに行くな」とか(笑)。
司会:いろいろご迷惑をおかけしました(笑)。る・ばるに初参加していただく方にはどのくらい寄り添っていただけるかがいつも心配なのですが。
マキノ:それはもう寄り添って奉仕しました(笑)。
松金:介護体験のような(笑)。

司会:茨木のり子を取上げた経緯を。
松金:「倚りかからず」という詩集を読んで、そこから他の詩集も読んで、これは芝居にできないかと軽い気持ちで提案しました。ただ主催の3人を全員茨木のり子にするのは難しく。
マキノ:脚本の長田さんがどういう話にすればいいかすごく悩んでいたら、永井さんが「お化けはどう」と提案してくれて、そこから脚本が始まりました。
司会:永井愛さんには度々お世話になっています。
松金:そのときも一緒にお茶を飲んでいたのですが、「お化けにしちゃえばいいじゃん」と言ってくれました。
マキノ:「前世がヤモリ」って(岡本の)台詞は本人が信じている「実話」だから迫真の演技でしたね(笑)。
岡本:私、前世がヤモリなんです(笑)。
マキノ:それを聞いた長田さんは目が点になっていましたけど(笑)、あそこから一気に脚本が進みました。
司会:この脚本を演出してみていかがだったでしょうか。
マキノ:演出するときは「自分が一番この芝居が好きだ」という気構えで演出しますから。いや結構大事なことですよ。

司会:初演と比べて今回の出来はいかがでしょうか。
マキノ:初演より今回のほうが出来はいいです。
司会:初演を観た人はどれくらいいますか(会場半分くらい挙手)。
マキノ:結構いますね。
司会:やはり「今回再演を観て、初演では気がつかなかったよさに気がついた」と言ってくれたお客様がいたのですが、脚本は何も変えていないんですよね。
マキノ:同じです。
司会:出演していた立場からは。
田岡:初演のときは(台詞を)入れて出しただけで終わりました。今回脚本を読んで初めて気がついたことが多いです。
松金:今回は再演の心構えも教わりながら進めました。
マキノ:再演だから前回できたところまではすぐに到達する、そこからどれだけ伸ばせるかが再演の勝負です。若い劇団だと初演のほうが勢いがあって面白かった、となることが多いけど、今回は再演のほうがよかった。
司会:あまりそう言われると初演を観た方に申し訳がないので・・・。
マキノ:初演もよかったけど今回はもっとよかった(笑)。
司会:あまりSNSで拡散しないでくださいね。

司会:最終公演とした経緯を。
松金:フランス映画で「母の身終い」というのを観たら、内容はまったく関係ないのですけど「身終い」という言葉が気に掛かるようになって。今のうちに身終いしたほうがいいと考えて最終公演としました。
岡本:私はこれから終活で(笑)。もうこの芝居が終わったら私生活も身終いで(笑)。
田岡:私は実はまだ続けたかったし、続けられると考えていました。ただそのまま続けて、飽きられて忘れ去られて「まだやっていたの」と言われるくらいなら、この作品で終わりにするのはありだと考え直しました。
司会:期せずしてマキノさんに解散公演の演出を依頼することになってしまいましたが、これで責任感など感じられてしまうと・・・。
マキノ:ない、微塵もない(笑)。みなさん止めることを深刻に考えすぎですね。私は止めることに結構縁があって、自分の劇団も解散していますけど、別に明日から死ぬわけでなし(笑)。る・ばるが解散しても皆さんは役者として続けていかれるのですし。劇団なんてやっていると何年先の公演予定が入って、そこまで病気もできないとか、いろいろ不自由なこともあるでしょう。そもそもきれいに止められる集団なんてほとんどないのだから、こんなに上手に止められるなんてむしろめでたいことですよ(笑)。

司会:この後、年内はツアーを行ないますが、来年になったら何をしますか。
松金:木野花さんを加えて4人でユニットを立上げる?(笑と拍手)
司会:そのときはぜひ私も。
マキノ:木野花さんもねえ。ご自分が演出なさるときは知的でチャーミングな方なんだけど、役者のときはどうして・・・(笑)。
松金:る・ばる化していましたね(笑)。
マキノ:最初にこの仕事を引受けたときは木野花さんがいると聞いて頼みにしていたんだけどねえ(笑)。
司会:る・ばるに参加する方はる・ばる化する傾向にありますね。
マキノ:そういう自分も森に迷って稽古に遅刻しましたけどね(笑)。森で迷うって旅行か(笑)。

<アフタートークここまで>

あんまり書かないでとは言っていたものの、別にそこまで悪い話でなし、こんな弱小ブログでは気にしない。木野花の話で拍手まで起きたのは、やっぱりあの仕上がりのよさを認めた観客が多かったのだと確認。その裏ではいったい何があった。

マキノノゾミは想像していたよりも大きい図体がくねくね動いて、何か近藤良平のように、身体に不思議な色気のあるおっさんだった。ちょっと正確な言葉を失念しましたが「自分が一番この芝居が好きだという気構えで演出する」の下りはいいですね。このアフタートーク一番の収穫です。

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遊園地再生事業団「14歳の国」早稲田小劇場どらま館

<2018年9月15日(土)昼>

とある中学校の3年生の教室。体育の授業中で生徒はいないが、教師が集まっている。中学生が最近起こした事件に触発されて、生徒を理解し危険を防ぐための持物検査を行なうためだ。ただし生徒には伝えられておらず、反対の意思を示した一部の教師にも内緒で行なわれている。授業時間内に終わらせないといけないのだが、教師の間で息が合わず、なかなか検査ははかどらない。

ネタばれしすぎたらつまらないので大雑把に書くと、いわゆる酒鬼薔薇事件を背景に、すでに大人になって長い教師から見た中学生のわけのわからなさと、そんな事言ったって大人のほうがわけがわかっていないではないか、という話。ある教師から話題が出たら、他の教師が必要以上に混ぜっ返していくあたりの展開は不条理劇っぽいラインぎりぎりを責めつつ、最後に不条理劇で一気にもっていく展開は見事。

ただその見事さ以上に、これが20年前の芝居とはとても思えないところが意外。酒鬼薔薇事件なんてすでに今の中学生が生まれる以前の事件で、実際に芝居の中では直接言及はされていない。それにも関わらず、登場する教師たちの、自分達は生徒の持物をこっそり検査してもよいという発想と、それでいて後ろめたいことをしている自覚と、なのに誰も止められないという展開。あれは舞台が中学校以外でも、今の日本として十分成立する。それを象徴するのがあのラスト場面とも言える。不条理劇なんだけど不条理に見えないというか、現実のほうが不条理というか。

教師役の5人がまた全員上手くて、特に疑わない筆頭の教師役の谷川清美の、近くに居そうな人物という雰囲気が、普通は上手いというと褒め言葉なんだけど、この芝居に限ってはそこに気持ち悪さが混じる。5人中唯一生徒寄りの美術教師役の踊り子ありは、こういう先生が居てくれたらもう少し救われる思わせつつ、あっさり生徒を裏切ったり、ラストの役回りも酷く、別の意味でわけがわからない大人の役が非常によかった。感想を無理矢理まとめると、丁寧で上等な後味の悪さを堪能させられた芝居。

ほぼ正方形の劇場に、一回り小さい教室を斜めに設置して座席を三方に配した美術は、どこから観ても見やすいというより、どこから観ても等しく損する場面がある模様。ただ思いっきりかさ上げされた舞台で、後列でも十分至近距離なので、前列よりは後列のほうがまだ見通しがよさそう。あと学校のチャイムから作った音楽がとてもよかったけど、それ以上に音響設備と音源がよかったのか、狭い劇場の音響がよかったのか、劇場ではこれまでで有数のハイファイな音響。いい音はいいものだと再認識。

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2018年9月18日 (火)

当日パンフとチラシ束を合体させてほしくない人の意見

感想に書こうと思ったけど止めていたら、fringeで取上げられていたので一言。野田地図の当日パンフがチラシの冊子と一緒になっていた、ということについて、嫌だという話です。

表裏表紙を入れて20ページ。発行編集が野田地図の当日パンフなのに、野田地図は4ページだけ(表裏表紙とめくった見開き)。後はチラシだけど、そのうち東京芸術劇場関係が8ページ(企画でクレジットの「父」、主催でクレジットの「ゲゲゲの先生」「書を捨てよ町へ出よう」「間」の4ページ、それに東京芸術祭2018が見開き2ページ、あと「芸術監督のだ秀樹のもと、道場に集え!」という東京芸術劇場名義の野田秀樹オーディション、ワークショップの見開き2ページ)。普通のチラシは8ページだけ(シネマ歌舞伎として「野田版桜の森の満開の下」が載っているのは松竹判断として普通扱い)。芸術監督を務める劇場の噛んだ宣伝をメインで載せて当日パンフの費用を賄うのはどうなのよ。

まあそれは正直いいんだ。微々たる金額だろうからそこの公私混同は目をつぶっても構わない。そもそも東京公演は共催扱いだし。

嫌なのは、自分は記念に観た芝居の本チラシ、当日パンフ、チケットの3点セットを可能な限り保管しているんだけど、全篇その芝居の冊子ならともかく、関係ない芝居の宣伝チラシまで保管したくないんだ。かといってホチキス外して中途半端な形で保管するのも困る。そもそもクレジットの見開き2ページの裏に普通のチラシページが来るようになっている(今回だとKAATの「出口なし」)。

これを今後の手段として使うなら、ホチキスを使わず、野田地図の情報だけが1枚の紙にまとまるような形にしてほしい。一番外側の紙か、一番中の紙が野田地図の情報になっていて、他がチラシの冊子。

それじゃこれまでの当日パンフと何が違うのかというと、実質何も違わない。つまり当日パンフとチラシ束を分けたままにしてほしい。

という話。

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2018年9月 9日 (日)

松竹製作「秀山祭九月大歌舞伎 河内山」歌舞伎座

<2018年9月8日(土)昼>

幕府の御数寄屋坊主を勤めているものの、裕福な商家にたかるようなこともしている河内山。たかり目的で寄った質屋で親戚一同相談中の事情を聴くと、大名屋敷に奉公に上がった娘が殿様の目に留まり妾になれと言われている、すでに結婚の約束を交わした相手もいるので断るも殿様からは手打ちにする、それならされると明日をも知れぬ身だという。助け出す知恵の湧かない質屋の内儀に、前金百両、無事に救い出せたらもう百両の話を取付けた河内山が、大名屋敷に乗りこんで一芝居打つ。

一幕見席で見物。一芝居打つと言ってもそこまでひねったものでなし、大名相手にやり込めて、追加の賄賂も巻き上げて、最後に見破られるものの開き直って啖呵を切って押し返すまでの一連の流れは実に素直。筋を楽しむより、わがままな武家を懲らしめるという展開が、当時の町人受けを狙ったもの、その背景として当時の町民は武家にそういう感情を持っていたのだろうなと推測。吉右衛門の啖呵が聞かせてくれるけど、愛嬌が多くて格好よすぎるのがこの話には難。筋が素直な分だけ、もう少し全体に生臭さも増やして、毒を以て毒を制す感じが出ていたほうが個人的には望ましい。

久しぶりに歌舞伎を観たけど、現代で観るには演技がゆったりしすぎと感じるのはいつも通り。自分には遅すぎると感じるけど、あれでないと昔の雰囲気が出ないと反論されるのはわかる。ただ場面転換はもっとスピーディーにならないかとは思う。盆を回すのにあれだけ時間がかかるのは舞台が広くてしょうがないにしても音や照明で工夫してほしいし、音も流さないで幕を閉めて場面転換するなんて論外。余所の芝居を観に行かないのかな。それにしたって「鼠小僧」その他で間近に観ているだろうに。

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2018年9月 7日 (金)

野田地図「贋作 桜の森の満開の下」@東京芸術劇場プレイハウス

<2018年9月6日(木)夜>

古代ヒダの国の王が3人の彫刻職人を呼寄せる。夜しか起きない姉の夜長姫と昼しか起きない妹の早寝姫との2人の姫の成人に祝いに、3年の期限で仏像を彫ってほしいという。が、そのうち一人目は誤って自分で亡くなった師匠の弟子が、二人目は職人を道中に襲って殺めた山賊の頭が、それぞれ成りすましている。極端な性格の夜長姫は一人目の男の耳を奴隷に切取らせたのを手始めに、何かと困らせる一方、美しい顔に引かれた早寝姫に近寄られた三人目の職人は、ヒダの国の丑寅に封印されている鬼のことを調べている。その動きを知った二人目の男は、それを種に手下の山賊たちとともに接近を図る。

当日券をもぎ取って、2001年の新国立劇場版、2017年の歌舞伎座版に続いて3度目の観劇。夢の遊眠社時代にも2回上演されているから、野田秀樹の中でも上演頻度の高い脚本のはず。ただ何と言うか、うーん、低調だった。

先に褒めるところを書いておくと、今回観て、脚本のよさに今さら気がついた。いかにもあったかもしれないように描かれる古代の謎と、今の時代ならもっと減らしたであろう、過剰と言える言葉遊びで挑むところ。演技力より何より上演にはまず気合が大前提の壮大な話は、野田秀樹でしか観られない。

それを上演する隙のないスタッフ陣。美術も照明も音楽もいいけど、微妙にポップなひびのこづえの衣装がよく似合う。歌舞伎座版で鬼の面に批判的な感想を持ったけど、今回そこまで気にならなかったのは衣装で中和されていたからだと思う。あとコロスの面々の切れのある動きとぴたっと止まる身体がスピード感を出していた。少しだけど台詞もあって悪くなかったし、ひとり表情の変化がすごい女性コロスがいたけど誰だろう。

ただ主力メンバーが軒並み低調。まず天海祐希の演じた三人目の職人オオアマ。美しさ格好良さはさすがだけどこの役に必要な悪い面が全然見えない。歌舞伎版を幸四郎のオオアマは観たときには感心しなかったのだけど、実は結構いい出来だったのだと思い直した。古田新太の二人目の職人マナコ。長丁場で省エネ運転なのは劇団☆新感線の出演も含めて最近の傾向だけど、切れがないから省エネが手抜きに見える。唯一新顔で早寝姫の門脇麦。溶け込んでいたのはさすがだけど、あと一歩ほしい。夜長姫の深津絵里は結構頑張っていたけど、七之助の夜長姫を見た後ではまだいけるのではと期待してしまう。一人目の職人で耳男の妻夫木聡と、ヒダの王を演じた野田秀樹が頑張っていたほう。他のベテラン勢は控えめに徹してあまり遊びも仕掛けず。

2日前に大阪で台風、当日早朝に北海道で大地震と大規模停電、ひょっとしたら身内に被害があってあまりはしゃぐ気分ではなかったのかもしれないけど、大枚はたいた客としてはもう少し何とかならなかったかと望みたい。

あと穿った見方をすると、今回はフランス公演を控えて、現地で誰か倒れても公演に穴を開けないで済むよう、バックアップを見据えたキャスティングだった可能性がある。天海祐希(野田秀樹主演の三谷幸喜芝居で宮沢りえにバトンタッチされたのは記憶に新しいところ)か古田新太なら池田成志か大倉孝二が、深津絵里か門脇麦なら村岡希美が、妻夫木聡なら野田秀樹がスクランブル、銀粉蝶と秋山菜津子も場合によっては調整、まさかの野田秀樹なら藤井隆が、それぞれ後詰めして、開いた役はコロスから抜擢。普段はこの贅沢なキャスティングが遊びを仕掛けて盛上げるのだけど、今回は字幕公演対応のためか実直な場面が多く、贅沢が無駄遣いに見える。そのくらいの理由を考えないと納得できない。

そしてバックアップで対応できるくらいの能力を持ったキャスティングにした結果、エネルギーに欠けるというか、こういっては何だけど年寄り臭い舞台だったともいえる。周りのコロスはみんなダンス経験者なのか、動きに切れがあったのでなおさらそう見えたのがひとつと、もうひとつ意外だったのが、滑舌が悪くて聞取りづらい台詞多数。3倍速で台詞を言っても聞き取れるのが野田秀樹の舞台じゃないのか。

フランス公演が終わって、自然災害が落着いて、もう遠慮しなくていい状態になった凱旋公演で出来ればもう一度確かめたい。

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2018年8月29日 (水)

公演中止と公演延期と公演強行の記録

降ればどしゃ降りというか、同じような時期に3つも揃うのも珍しい。あまり野次馬する元気がないので記録メインで。

まずは公演中止の話。the pillow talkという早稲田出身の旗揚げ3年目という絵に描いたような小劇場劇団。公式サイトは実にあっさりしたもので、

9月に予定しておりました、こまばアゴラ劇場での上演を中止する運びとなりましたことをご報告申し上げます。
楽しみにしてくださった皆様、大変申し訳ございません。

さっぱり事情がわからないのは劇場サイトも同様だけど、ちょっとだけ想像力を刺激する。

9月上旬に公演を予定していたthe pillow talkの『我が闘争。気軽に、(仮)』の上演中止が決まりました。

上演を楽しみにしてくださっていた皆様、特に支援会員の皆様には、たいへん申し訳なく、劇場の芸術総監督としてお詫び申し上げます。

こまばアゴラ劇場としては、最後まで公演を実現すべく支援をして参りましたが、諸事情により中止のやむなきに至ったとのことです。本公演は、劇場の主催公演ではありませんので、これ以上の関与は難しいと考え、その判断を受け入れることにいたしました。

劇場は支援したけど劇団は中止と判断したと。一般的には資金繰り、人間関係、怪我や病気による続行不能、作品の魅力不足からくるごたごた、あたりが思いつくけどどうなんだろう。あとは災害の多い夏だったから、主要関係者がそちらの復旧にかかりきりになった、なんてこともあるかもしれない。

次は青年団から独立しつつ、まだ演出部に所属する田川啓介の水素74%。これは公式サイトで台本遅れと明言している。

2018年8月9日~13日に下北沢駅前劇場で予定しておりました水素74%「ロマン」につきまして、東京公演の上演中止を決定いたしました。
台本完成の遅れに伴い、稽古時間が十分に取れず、皆様にお見せすることが難しいと判断したためです。
このような事態を引き起こしてしまい誠に申し訳ありません。 俳優、スタッフ、その他関係者の落ち度はなにもありません。全て主宰・田川啓介の責任でございます。 改めて出演者及び関係者の皆様にお詫び申し上げます。

平田オリザからも平手打ちが飛んで裏付けは取れています。

また、青年団演出部の田川啓介が主宰する水素74%が、駅前劇場で予定していた公演を中止しました。こちらも独立した団体ですが、田川はこれまでも執筆が遅く、再三にわたって注意をしてきたにもかかわらず、上演を遂行できなかったことは同じ劇団員として情けない思いです。
(中略)
なお、田川と協議し、今回の混乱の責任をとって、以下のような措置を行うことになりました。

・田川啓介ならびに水素74%は、当面活動を停止し謹慎する。
・田川啓介は9月の上演終了時点で青年団を退団する。

明快。ところでこの芝居は東京の後に三重公演も予定されていて、そちらには間に合って、一部キャストの交代はあったけど上演された。そこに先ほどの公演中止が重なる。再び平田オリザ。

 また、すでにこまばアゴラ劇場のHPでは公表しておりますが、アゴラ劇場のラインナップに入っていたthe pillow talkの『我が闘争。気軽に、(仮)』の上演中止も決定しました。HPにも書きましたが、プログラム選定に責任を負う芸術総監督として、支援会員の皆様をはじめ多くの方々にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

 さて、上記、二つの上演中止の案件を受け関係者と協議を行い、水素74%が本来、駅前劇場で行う予定だった新作『ロマン』を9月上旬にこまばアゴラ劇場で上演することとなりました。
 一つの劇場をキャンセルし、その一ヶ月後に近隣の劇場で上演を行うのは非常識な行為ですが、駅前劇場様からもご理解をいただき公演を実施する運びとなりました。
(中略)
異例の措置かとは思いますが、俳優たちにとっても、やはり公演はやれるならやるに越したことはなく、どうか関係各位にはご理解をいただければと存じます。

そもそもこんなにタイミングよく公演中止が発生することもないのであまり聞かない措置ですが、融通の利くご近所の民間劇場主同士、話をつけたんでしょう。平田オリザがどんな風に駅前劇場にご理解をいただいたのかに興味はありますが、それは表に出てくる話ではない。公演を延期して上演できた話。

個人的には、劇団☆新感線が「髑髏城の七人」を初演したときの話、ぎりぎりすぎてラスト場面の稽古を何もできないで初日を開いたら、ラストになって「おい、どうすんだよ」と訊かれた古田新太が「いいから後ろを向け」とみんな後ろを向いてラストに収めた話を思い出す。まるで間に合わない場合に適当なところで切りをよくしてとりあえずアウトプットを出す、というのは社会人のスキルとしてぜひ身に付けたい。

最後は公演強行した(劇)ヤリナゲという6年目の劇団。こちらも脚本演出家が原因だけど理由は病気で、そこを資料で構成して作ったとのこと。これは公式サイトにも劇場サイトにもほぼ同じ内容が連名で載っている。ちなみに公式サイトは8月19日の日付。

このたび、越寛生は病気のため、演出を担うことができなくなりました。
そのため、本作品は、構成・演出:(劇)ヤリナゲとして上演を致します。

なお、今回の越の不在による構成・演出の変更を受けまして、相談のうえ、國吉咲貴さん、三澤さきさんは出演を辞退されることになりました。
本公演は國吉さん、三澤さんの代役は立てずに13人で上演致します。
今回の國吉さん、三澤さんの決断は、作品へ向き合う誠実な姿勢であり、お二人に非のある行動ではありません。

越寛生演出による『みのほど』を心待ちにしてくださった皆様、また國吉さん・三澤さんの出演を楽しみにしてくださった皆様には深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ありません。

今回の、演出の変更、および國吉咲貴さん、三澤さきさんのご出演取り止めに関しまして、本日より、すべてのご購入者様、予約者様におきまして、お預かりしているメールやお電話に、ご連絡を差し上げます。払い戻しや、ご予約の取り消しに関しましてのご相談は、その際にお伝えいただけましたら幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。

(劇)ヤリナゲ
公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団

劇場サイトだともう少しだけ詳しいのと、最後の部分が少し変わっている。

<お客様へ>

(劇)ヤリナゲ『みのほど』は昨日、8月24日(金)に幕を開けました。
8月18日(土)の発表のとおり、越寛生さんは病気で演出を担うことができなくなったため、本作品は、構成・演出:(劇)ヤリナゲとして上演をしております。今回の『みのほど』は、越さんの執筆時の構想、集めた資料、また過去の越さんの短編作品を中心に、構成し創作した作品です。

なお、上記のような構成に変更されたことと、越さんの不在により、相談のうえ、國吉咲貴さん、三澤さきさんは出演を辞退されることになりました。本公演は國吉さん、三澤さんの代役は立てずに13人で上演しております。
今回の國吉咲貴さん、三澤さきさんの決断は、作品や創作へ向き合う誠実な姿勢であり、お二人に非のある行動ではありません。

越寛生演出による新作本公演『みのほど』を心待ちにしてくださった皆様、また國吉さん・三澤さんの出演を楽しみにしてくださった皆様には深くお詫び申し上げます。誠に申し訳ありません。

公演は9/2(日)まで続きます。出演者・スタッフ一同、誠心誠意最後まで創作を続けてまいります。
より多くのお客様に現在の(劇)ヤリナゲの作品をご覧いただけますと幸いです。ぜひ劇場に足をお運びくださいませ。

2018年8月25日
公益財団法人三鷹市スポーツと文化財団
(劇)ヤリナゲ

連名の順番も違っているので、少しでも多くの客に来てもらえるようにと劇場側が工夫した跡が見て取れる。初日は8月24日なので、どうにかこうにか開演に漕ぎつけたから、じゃあ次は宣伝、と劇場側が積極的に協力してくれている模様。そもそもがMITAKA Next Selectionの1本だから、劇場の関係者が推薦して、声をかけて、上演してもらう運びになっているはず。それが体調不良で中止になったら推薦した側の立場もなくなるという事情もある。だとしても劇場側の協力体制は見逃せない。こまばアゴラ劇場が支援しても公演中止に至ったという話があるのでなおさら。

世間で有名な話だと井上ひさしが台本が間に合わずに初日遅れどころか公演中止にしたことがあって、後で「公演に間に合わせるためにつまらない芝居を書くとお客さんが離れていってしまうので、台本が駄目なら公演中止のほうがいい」なんてどこかに書いていたけど、あれは井上ひさしの実力と実績と台本が遅いことがネタになるほど知られていたという背景があってこそのギャンブルで、普通は公演中止のほうが信頼は落ちる。だから今回、過去の公演の再演でもなく、いっそ有名で著作権フリーな古典で「ロミオとジュリエット」とかやるでもなく、新作の体裁を整えてきたのは見上げた根性。

でも、初日が8月24日で、病気ダウン発表が8月19日で、別の演出家を立てた台本上演でなく構成創作したということは、それよりだいぶ前の段階から病気が長引いて台本はあがってこない稽古もできない状態が続いていたのではないかと想像する。台本が遅れても本人がいればエチュードその他でネタを作ることもできただろうし。であればもう少し早い時点で代案を用意しておくことはできなかったものか。芝居の台本を1本書くのに3日ということもないだろうから、今後は初日3週間前くらいで対策に動けるように劇団の制作体制を整えておくのがよいのではないか。

仕事にトラブルはつきものなので、期せずしてトラブルに巻込まれた関係者各位は、ある人は一段成長したり、あるひとは日ごろ見せない思わぬ腕をふるって見直されたり、きっといいことがあるはず。とか自分で観る予定のなかった芝居ならいくらでも優しく野次馬でいられる。自分がチケットを買っていて中止とか言われたら「うおおおおおおーいっ」って叫ぶ。

ここまでですでにお腹いっぱいなので、平田オリザのブログには無隣館三期生が家宅侵入の疑いで逮捕されたなんて話まで載っているけど、そこまでは追いません。

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2018年9月10月のメモ

ここで観ておかないと、という芝居が満載なので困る。細かい芝居を見落としている気がするので後で見直して更新。

・野田地図「贋作 桜の森の満開の下」2018/09-01-09/12、11/03-11/25@東京芸術劇場プレイハウス:いきなり本命の1本は「これなら2割安く東京芸術劇場で上演してもらったほうがよい」と書いた通りの公演だけど罰があたってチケットが取れていない

・松竹製作「河内山」「俊寛」2018/09/02-09/26@歌舞伎座:昼の最後が河内山、夜の中が俊寛で、有名な芝居を観ておきたいのと、吉右衛門を本場で一度観ておきたいというミーハー気分による

・俳優座劇場プロデュース「十二人の怒れる男たち」2018/09/07-09/09@俳優座劇場:ちょこちょこ再演してくれるのだけど期間が短い

・ぱぷりか「きっぽ」2018/09/07-09/17@三鷹市芸術文化センター星のホール:MITAKA Next Selectionが始まっているのを見落としていた

・グループる・ばる「蜜柑とユウウツ」2018/09/13-09/23@東京芸術劇場シアターイースト:評判だった芝居の再演で解散、脚本は長田育恵で演出はマキノノゾミ

・小田尚稔の演劇「聖地巡礼」2018/09/14-09/17@RAFT:さいきん気になっているのでピックアップ

・遊園地再生事業団「14歳の国」2018/09/14-10/01@早稲田小劇場どらま館:名前だけ知っている芝居だけど気になるのでピックアップ

・オフィスコットーネセレクション「US/THEM」「踊るよ鳥ト少し短く」2018/09/20-09/27@小劇場B1:海外脚本の日本初演と、ノゾエ征爾の再演ものと、2人芝居の同時上演企画

・KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「華氏451度」2018/09/28-10/14@神奈川芸術劇場ホール:焚書から始まるディストピア小説を、翻訳でなく脚本化から長塚圭史でいいのかな、演出は白井晃

・ゴールド・アーツ・クラブ「病は気から」2018/09/29-10/08@彩の国さいたま芸術劇場大ホール:数百人で上演という何がどうなるのか想像がつかない企画

・株式会社パルコ企画製作「ライオンのあとで」2018/09/29-10/15@EXシアター六本木:黒柳徹子のコメディシリーズのとりあえずの最終回

・国立劇場主催「平家女護島」2018/10/01-10/25@国立劇場大劇場:9月の歌舞伎座の俊寛を観ておくと、ここで通し狂言と観比べることができる

・新国立劇場主催「誤解」2018/10/04-10/21@新国立劇場小劇場:新芸術監督が就任しての第一作はカミュの翻訳を、文学座の稲葉賀恵演出で

・地人会新社「金魚鉢のなかの少女」2018/10/06-10/14@赤坂RED/THEATER:海外翻訳脚本だけど、気になるキャスティングなのでピックアップ

・東京芸術劇場主催「ゲゲゲの先生へ」2018/10/08-10/21@東京芸術劇場プレイハウス:イキウメ本公演の代わりに気になるゲストを迎えて、前川友大が水木しげるの世界を描く

・パラドックス定数「蛇と天秤」2018/10/10-10/15@シアター風姿花伝:一挙公演の第5弾で、ここまで1本目、3本目、4本目を観ているので期待したい

・青年団「ソウル市民」「ソウル市民1919」2018/10/14-11/11@こまばアゴラ劇場:何度も再演されていて、そろそろ観ておきたい

・こまつ座公演「母と暮せば」2018/10/05-10/21@紀伊國屋ホール:構想だけで映画製作された話を畑澤聖悟脚本で舞台化して栗山民也演出、「父と暮らせば」がいまいちだったけどこれはどうか

・かわいいコンビニ店員飯田さん「手の平」2018/10/19-10/28@三鷹市芸術文化センター星のホール:MITAKA Next Selectionの3本目だけど、設定が上手そうなのでピックアップ

・KERA・MAP「修道女たち」2018/10/20-11/15@下北沢本多劇場:女優演出の上手いKERAが女優だらけの新作なので期待度高し

他に「出口なし」が9/24まで新国立劇場小劇場で。

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2018年8月28日 (火)

パラドックス定数「Nf3Nf6」@シアター風姿花伝

<2018年8月25日(土)昼>

第二次世界大戦中、ドイツ内にあるユダヤ人収容所。ナチスの将校が銃殺される寸前のユダヤ人を救って自分の執務室に連込む。2人はかつて大学の数学教師で、共同で論文を執筆したこともある仲だった。数学者として相手の能力に敬意を払って助けたいと考える将校と、相手の能力に敬意を払いつつもすでに家族も殺されてナチスに身を投じた相手を責める囚人。将校の私物のチェス盤を載せた机をはさんで交わされる会話につれて明かされる、互いの過去と立場。

タイトルは「ナイトエフスリー ナイトエフシックス」でチェスの駒の動かし方。相手を探りあいながらも、数学の話題には共通してのめり込む関係。タイトルと設定とラストが格好いい、いかにもパラドックス定数という男2人芝居。

反面、役者の出来がいまいち。2人が共同で過ごした時間を感じさせてくれないし、今いる収容所の様子も薄いし、数学の話も(観ているこちらで内容が理解できないのはともかく)数学者として話しているように聞こえないし、死体を見慣れているようにも思えない。共通の景色が見えないというか、脚本にない部分だからこそ、役者に補ってほしい。将校役には準備不足を感じるし、囚人役も精神状態はともかく健康状態は良好すぎないか。

脚本も、2人のパワーバランスが揺れてほしいところ、最初から最後までほぼ一直線で逆転していくのは物足りない。あと会話の転換点がびっくりするほど追えなかった。数学とか暗号とか、2人に共通の前提がたくさんある設定だけど、脚本が急なのか、演技の詰めが甘かったのか不明。

タイトルとチラシの格好良さで結構期待していて、始まってしばらく、設定がわかるあたりまでの格好良さは期待通りだったけど、その分だけ仕上がりにはがっかりした一本。

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キョードー東京企画招聘「コーラスライン」@東急シアターオーブ

<2018年8月23日(木)昼>

ブロードウェイのオーディション。主要な役ではなくコーラスダンサーのオーディションだが、それでも競争は厳しい。最終候補に残った16人の候補者から採用されるのは半分だけ。何としても仕事がほしい候補者たちに対して、履歴書に書いていない自分のことを話してほしいと演出家は依頼する。ライバルを前に候補者たちが話すのは、自分の子供時代から今の環境まで。

名前だけ知っていて観たことがなかった有名ミュージカル。候補者のスピーチとそれを聞く他の候補者の内心の声とを歌にしつつ、演出家も含めてのあれこれを上手に2時間にまとめる手際のよさ。所々に華やかさはあっても、事前に想像していたミュージカルらしくないというか、全体に候補者の話が暗いというか湿っぽい話に寄っていて、希望を述べる場合もその前提にあまりよくない境遇がついくるような話。いろいろあってもオーディションは厳しい、ましてやコーラスダンサーのオーディションに応募してくる人たちの生活もお察し、というドライな競争世界が極端に日常化したアメリカショービジネス界ならではこそ、ラストのあっさりさも含めて、この湿っぽさが潤いとして成立すると思われる(別に日本が厳しくないというわけではなくて、日本だとさらに湿っぽいほうに偏ると思う)。

構成では、もう少しダンスが多いかと思っていたけど、歌がメイン。歌と演技は上手くて、だいたい台詞の量と役者の力量が比例して、そこにも厳しさを感じる。ただダンスはそこまで感心できなかった。コーラスダンサーだからそんなに上手い設定ではないけど、わざと下手にしたのではなくダンスはそこそこで見切った印象で、そこが不満。あとオケか音響かわからないけど、音楽が薄く、立体感に欠けた。

一度は観られてよかったけど、来日公演とはいえこれでS席13000円は高いという感想。いろいろなパートが、もう少しずつ何とかしてほしかった。

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