新国立劇場主催制作「ロミオとジュリエット」新国立劇場小劇場(若干ネタバレあり)
<2024年12月7日(土)夜>
ヴェローナの街の有力者にして勢力争いで街を二分するモンタギュー家とキャピュレット家。モンタギュー家のロミオは仲間と一緒にキャピュレット家の開く仮面舞踏会に潜り込むが、そこでキャピュレット家の一人娘ジュリエットと出会う。たちまち恋に落ちた2人は翌日神父のもとに出向いてこっそり結婚するのだが・・・。
初日。新国立劇場演劇研修所が最終年度に3回行なう上演の2つ目。三間四方の素舞台に囲み客席。始まる前から役者に客席をうろつかせて冒頭の台詞を話させるのは客席の雰囲気を高める手段でもあり、役者の緊張を解く手段でしょうか。開演前のアナウンスもうろつく役者にやらせてから、すっと舞台を始める出だし、好きですね。そして観終わったら結構面白かった。
この日はマキューシオとパリスの2役を演じた横田昴己、大公の萬家江美、キャピュレット婦人の高岡志帆、キャピュレットの中西良介が気になりましたけど、全員万遍なく、割と上手でした。とにかく勢いだけは切らさないところはよかったし、若い役者の上演なだけはあって、走り回ったりアクション激し目にこなしたりしても息が切れないのはいいですよね。あえて難点を言えば、ロミオの中村音心とジュリエットの石川愛友は嘆き悲しむ場面でもっと外に出してほしいところ。芝居の設定上は内に向かうところでも、そのまま内に向かって演じられると、激しく嘆くほどうじうじするなと引っぱたきたくなる。その点、怒鳴っても演技上のいらつきは感じさせない中西良介がよかったのですけど、こちらは10期生なので今年の18期生からはだいぶ年上なので、慣れの差でしょうか。
演出が現代音楽で、あれは芝居の使い方というよりは音楽ライブっぽさがあって、演出の岡本健一のセンスが出たところでしょう。音楽製作の田中志門は岡本健一のバンド仲間ですね。あとはアクションも激しさ優先で演出していて、さして距離のない至近距離でもいい感じに見えました。
ただ、これが若干ネタバレの話になりますが、演出でエンディングをがらっと変えてきました。
本来は納骨堂に皆が集まって、ロレンス神父がことの経緯を話して、それで大公が両家を諭して、2人の像を立てて仲直り、で終わります。ところが今回はロレンス神父が逃げて、両家がいがみ合ってアクションをしたまま終わります。マクロには戦争で世界が争っている現代でもあり、ミクロにはSNSで主義主張が飛び交って少しずつ分断が進む個人単位の現代でもあります。他にも両家で主人が妻を足蹴にしていたり、キャピュレットが勝手に性急に娘の結婚を決めたところで妻(ジュリエットの母)が夫を怒らせないことを優先したように見せたところも現代的な演出でした。計画を提案したのに、神父なのに、事情を話さないで逃げたロレンス神父が個人的には現代的すぎて嫌すぎました。いますよね、言いだしっぺで逃げるこういう人。
演出全体に方向性がはっきりしていて、岡本健一はただの名前貸しの演出ではなかったと認識しました。大人側に絶望的な要素を集める一方で、希望の欠片をロミオとジュリエットの2人に集める演出プランだから、2人の役者に掛かる期待と責任はとても大きい。いくら奮起しても足りないくらいですが、一層奮起してほしい。
スタッフワークは安定安心の新国立劇場ですけど、今回は素舞台に、天井だけ吊って電飾を飾って上下させていましたけど、あれでも素舞台に近いと言えば近い。衣装も白いTシャツとパンツに汚しを入れて、芝居にも役者にも似合っているけど簡素。何となく、2回目の公演は勢いで押切って、その分は3回目の公演に突っ込むのかなと制作的予算配分も頭をよぎりましたが、パワーマイムで観劇人生を始めた人間としてはむしろこういう素舞台で動き回る芝居のほうが好きだったりします。5日間やればまだ伸びそうな印象を受けたので、できれば千秋楽と見比べてみたかった。そういえば仮面舞踏会から納骨堂まで、ロミオとジュリエットも5日間の物語ですね。5日間走り抜けてほしいです。