2023年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

2023年1月23日 (月)

風姿花伝プロデュース企画製作「おやすみ、お母さん」シアター風姿花伝(ネタばれあり)

<2023年1月21日(土)夜>

母と離婚して戻った娘が2人暮らしする家。母が娘に身の回りの世話を頼んでいるが、娘は亡くなった父の残した銃を探している。2時間後に自殺するために使いたいのだという。母は冗談だと思って取り合わないが、娘は自分が亡くなった後の身の回りの始末を進めていく。

今回の風姿花伝プロデュースは母と娘の2人芝居を、実の母娘である那須佐代子と那須凜が演じるという取り合わせ。しんどい会話劇は、客観的な感想だと脚本の読み違えがあったと言いたいけれど、個人的にはむしろそこに見応えがあったというややこしい感想です。2人ほぼ出ずっぱりの熱演なので観た人たちの感想が気になりますが、以下ネタばれで自分の感想を。

母が娘に家事をいいつけたり、自殺前に娘が家事のあれこれを片づけるところから、普段の生活で母がいろいろ娘に依存していることが伝えられます。この過程で、娘はてんかんの発作で子供のころからいろいろ上手くいかず、結婚して息子ももうけたものの夫とは離婚して息子は犯罪で逃亡中で人生になり、薬のおかげでここ1年ほど発作が収まったものの、それで頭が冴えた結果、人生に未練をなくして自殺に思い至ります。

脚本だけ追っていくと、よかれと思っていた母の振舞が娘から自信を奪うことになり、また母自身も自分の人生に我慢や諦めがあったことが明らかになります。ここを見ると、最近の言葉でいう毒親が、娘の行動からその事実を突きつけられて自覚する物語です。母役を演じた那須佐代子はおそらくこの線で役を作っていました。いい出来です。終盤にいろいろ気がついて食堂のテーブルで絶望した顔になる場面は絶品でした。

ただし今回、娘役を演じた那須凜が母役の引立て役に入らなかった。自分が亡くなった後の身の回りの始末をリスト化して積極的に進める様子だったり、ママのせいじゃないと伝える際の伝わらなさがわかっているニュアンスは、これだけきちんとした人でも、むしろきちんとした人だからこそ自殺を選んでもおかしくない世の中なのだと想像させてくれました。初演は1983年らしいですけど、この役作りの線が2023年にしっくり合っていました。

人によって意見はあれど、私は昔より今のほうが余裕のない世知辛い世の中になっていると思っています。特に先進国と呼ばれていた国は。世界が発展して国力が相対的に落込んでいるとか、社会が整う過程で無駄が省かれたとか、理由はいろいろあります。昔のほうがセクハラパワハラ上等でその点では今のほうが進歩しているでしょうし、やりたいことがあってそのパスを探せる人には最高の時代です。ただ、世間に求められるスキルが高くなり、それがこなせない人の就ける仕事や居場所はどんどん減っています。それが長く続いても耐えられる人と耐えられない人がいます。

母の説得に「それはここにいる理由にはならないの」と返すくだりの台詞回しは非常に胸に沁みました。理由なんてなくなってから人生本番なんだとおっさんになった今なら言えます。劇中の母も似たような台詞を言います。それでも自分は世の中に必要ないと考えるその真面目さは、今様の繊細な造形でした。

この線がもう少し掘れればよかったのですけど、残念だったことが2つあります。ひとつは那須凜が生き生きしすぎていて、人生への執着のなさが表現しきれていなかったこと。もうひとつは那須佐代子の役との調整不足で、脚本が求める以上にお互いのやり取りがチグハグに見えたこと。あと一歩で初演から40年後の日本にふさわしいところまで行けそうな手ごたえなのですけど、あと一歩が足りなかった。けど、見応え十分でした。

翻訳と演出は小川絵梨子ですけど、どういう方針で演出を進めていたのかは気になります。ちなみに翻訳だと、娘が母を普段はママと呼ぶところ、タイトルの台詞のところだけお母さんと呼ぶのが、娘の律儀さを最後まで表現していてよかったです。

最後にスタッフです。音響は効果音以外なしです。それで上演時間1時間45分を持たせた役者も凄いですけど、効果音以外要らないと決断できる音響も凄いです。衣装は母が身体にあった服装に対して娘には今どきのだぼっとした服装を当てて、年齢差以上に世代差を強調していました。あと美術は、この風姿花伝プロデュースでは毎回狭い空間に工夫しつつ安いわりに豪華に見える工夫がされています。今回だと家具を多く使って舞台の設営は奥の壁と台所だけ、屋根裏部屋は上手の劇場階段を奥に見せて利用、と毎度のことながら工夫された美術でした。

全部感想という名の妄想ですけど、妄想を誘ってくれるだけの熱演でした。

2023年1月 9日 (月)

National Theater Live「レオポルトシュタット」

<2023年1月9日(月)昼>

オーストリアに住むユダヤ人の家族。迫害から逃れて暮らすウィーンで長男がキリスト教に改宗してまで努力して成功者になったメルツ家と、父母は田舎に暮らすが子供たちがウィーンに出てきてメルツ家の長女と縁戚関係になったヤコホヴィッツ家。交流の多い両家が、メルツ家でクリスマスを祝う1899年から、1900年、1924年、1938年、1955年を通じて、一族の歴史を辿る。

舞台収録を映画館の鑑賞に堪えるように映像化したNational Theatre Live。日本公演を先に観ていたのが予習になって、展開を追う以上の余裕を持って観られました。場面ごとに子供の役者が大人の役者に交代することは、外国人の顔をそこまで細かく見分けられないと割りきって最初から見た目で追うのを諦めたら話に入れました。

で、やっぱり当事者としてユダヤ人の歴史に関係している本場は強かったです。超がつくオーソドックスなストレートプレイで何なら日本公演とほとんど変わらない演出でしたけど、声に迷いがありません。特に序盤の言い争いが力強い。座組全体で脚本の理解と演出の方向決めが揃った仕上がりでした。がっちり仕上がりすぎて観終わった後に少し気分が悪くなりました。

海外贔屓でためにするということではなく、ユダヤ人問題はやっぱり日本人には縁が遠いという話です。

今回観て気がついたことをいくつか。

現地演出だと場面転換で当時の写真をスクリーンに大量に映すのですけど、現実にもこういう出来事があったんだと伝えるのと同時に、あれだけ大量の写真を入手できるあたりが舞台となった本場だなということ。

最後に家系図を伝えるところが、1幕最初のエミリアのアルバムの写真に写る人物の名前を忘れてしまうという話とつながっていること。これは日本公演でも気がつくべきでした。ちなみに家系図も何回かスクリーンに映す演出です。

あとヘルマンは時間が経つごとにはっきりと態度を変える演技で、これが日本公演と一番印象の違う役でした。最初の立派な押出しから、妻の浮気相手を前にして怯んでウィーン社会に幻滅してしまうところ、そして最後に息子をアーリア人にするためにかつての妻の浮気相手に大金を払って一筆もぎ取っておいたことを自慢気に言うところ。おそらくこの一筆もぎ取っておくあたりが、良くも悪くもユダヤ人はしたたかだというのが現地の理解で、でもそう振舞うところに押しやったのは浮気相手の将校で、みたいな連想を誘う演技でした。

逆に日本公演で良かったのは、ナチスの将校がアルバムを踏みつける場面ですね。あれはあの場の力関係以上のユダヤ人の立場を表す象徴的な演出でした。現地だとそこまでやるとくどくなるのかもしれませんが、日本人の自分にはわかりやすかった。

笑える場面はほとんどないのでこれから観に行く人は体調万全で臨んでください。休憩なしなのでその点も注意。

パルコ企画製作「志の輔らくご in PARCO」PARCO劇場

<2023年1月7日(土)昼>

子供が習っているそろばん教室の先生の息子が結婚したと先生にお祝いを言いに来たのはいいが余計な一言が多い「まさか」。新作を盗作されて身投げするところを助けた狂言師のために長屋の連中が面白い話を教えようとする「狂言長屋」。堅物で通るが実は芸者遊び好きな大店の番頭が内緒で芸者を連れて向島の花見に繰りだしたらうっかり店の旦那と鉢合わせ「百年目」。

吉例企画。この劇場でやるからにはと噺以外の趣向も用意しているのでそこは観に行ってからのお楽しみ。おなじみのオープニング一言からマクラも工夫しての前半戦は素直に楽しむ。3本目だけ、もうちょっと縮めたほうが自分には好みだけど、人情噺なのでたっぷりのほうが好きな人が多そうで悩ましい。

面倒なことは考えずに素直に笑える、年の初めの1本に適した演目が選べて満足です。

2022年12月29日 (木)

2022年下半期決算

恒例の決算、下半期分です。

(1)野田地図「Q」東京芸術劇場プレイハウス

(2)新国立劇場主催「レオポルトシュタット」新国立劇場中劇場

(3)まつもと市民芸術館企画制作「スカパン」神奈川芸術劇場大スタジオ

(4)松竹主催「平成中村座 十一月大歌舞伎」平成中村座

(5)シス・カンパニー企画製作「ショウ・マスト・ゴー・オン」世田谷パブリックシアター

以上5本、他に隠し観劇なし、すべて公式ルートで入手した結果

  • チケット総額は45100円
  • 1本あたりの単価は9020円

となりました。上半期の9本10公演と合せると

  • チケット総額は126850円
  • 1本あたりの単価は8457円

です。なお各種手数料は含まれていません。

単価が高いのは有名どころに偏っているからです。なぜ偏ったかというと本数が少ない中で優先度の高いものを選んだからです。なぜ本数が少なくなったかというと新型コロナウィルス第7波の時期に控えていたのもあるのですが、体調不良が酷かった。時間だけならもう少しあったのですが、観に行かないで静養していました。ニュースもあまり見ないようにしていたので世の中の動向に疎くなっています。「元気があれば何でもできる」という言葉の裏の意味をかみしめる半年でした。

そんな中で下半期に観に行ったのは初演を観たけど再演も観とけの(1)、有名な芝居の再演だから観とけの(3)(5)、好きな演出家の芝居だから押さえとけの(2)(4)でした。体調不良もあったので辛い評価が続いてしまいましたが、そんな中でも(3)はいいものを観た感じが得られてよかったです。ただし通年なら想い出補正込みで上半期の「ドライブイン カリフォルニア」になります。次点はほぼ同率で「美しきものの伝説」です。長年見逃し続けていた有名演目をばっちりの座組で観られた満足感は高いです。

ただ半年たって思い返すと違いもわかって、「ドライブイン カリフォルニア」は脚本だけでなく役者と演出までハマったうえでの総合力、「美しきものの伝説」は圧倒的な出来の脚本を土台に立ちあげた感じですね。「美しきものの伝説」は突詰めると同じ芝居が出来上がりそうなかっちりとした脚本でしたが、「ドライブイン カリフォルニア」は松尾スズキ以外が演出してここまできれいに立ちあがる脚本なのかわかりません。そういう意味では(3)も串田和美に負うところの多い芝居でした。

本数が2年連続で15本なのは偶然ですが、このくらいのペースもいいですね。やっぱり60本は観すぎです。年間50本を超えてくるとスタッフ含めて個別賞を選べるくらいになるのですけど、お金以上に時間と体力の重要性が高くなっています。

本数が少ないので芝居の話はこのくらいとして周辺の話題。

最初は何と言っても新型コロナウィルス。こと芝居に限っては、客側の対応は落ちつくことになりました。マスク着用と手指消毒が必須。発熱確認と来場者連絡先記載は省くところも出てきました。座席も最前列を開放する通常編成になってきているようです。劇場の換気能力に客席側の行儀のよさ、さらに上演側の予防が重なって、安全性が実証されてきました。

ただし上演側の予防が大変で、公演中に何ステージか中止になることは珍しくなく、公演期間の短い小劇場だとそのまま公演中止になることもありました。公演の大小に関係なく中止は起きていましたが、それはつまり公演の大小に関係なく対応している証拠です。損を覚悟で誠実に対応している関係者には感謝あるのみです。

新型コロナウィルス以外だと、半年前なら表現の自由で政治家が当選するか気にしていたところ、当選したらいっきに注目が減ってしまいました。代わりに、ここ数年いろいろあったセクハラパワハラの告発がさらに派手に吹き荒れました。年末にYahoo!ニュースのトップ記事で見かけて、これを書いていたら追加でもう1件見るとは思いませんでした。

この手の話は1本だけ、訃報をとっかかりに「人格より前に能力と魅力が求められる業界の話」を書きました。念のために何度でも書きますけど、私は自分が被害にあったら逃げるのでセクハラパワハラ反対です。が、客が対価を払っている価値が、能力や魅力という値付けの根拠がよくわからない業界であることを考えると、そんな素直な話になるものではないとも考えます。大げさに言えば芸能ビジネスの何たるかを問う話です。これに関連して本当はもう1本書きたい話があったのですが、先送りします。

最後に一般情勢の話。サル痘の話は立ち消えました。食料品事情は値上げが厳しいですが、もうどうにもならないということでおおむね受入れられている気配です。ロシアとウクライナは続いていますが、これを長引いていると表現してはいけません。戦争は月単位ではなく年単位で考える必要があるからです。そして防衛費増の話が年末に出てきましたが、明らかに中国警戒ですね。何事もなく済んでほしいです。

来年の目標は元気を回復させつつ厳選した芝居を観ることです。引続き細く長くのお付合いをよろしくお願いします。

2022年12月26日 (月)

2023年1月2月のメモ

わりとここで観られるといいなあ、という芝居が多いので悩みます。

・松竹主催「十六夜清心」2023/01/02-01/27@歌舞伎座:第三部で幸四郎七之助なので勉強するならいい機会

・パルコ企画製作「志の輔らくご in PARCO」2023/01/05-01/31@PARCO劇場:年始恒例企画が恒例通りに回るようになってきました

・ホリプロ企画製作「キングアーサー」2023/01/12-02/05@新国立劇場中劇場:アーサー王は名前だけ知っていて話を知らないので観て覚える機会

・風姿花伝プロデュース企画製作「おやすみ、お母さん」2023/01/18-02/06@シアター風姿花伝:小川絵梨子の翻訳演出で本物の母娘で2人芝居

・果てとチーク「はやくぜんぶおわってしまえ」2023/01/19-01/22@アトリエ春風舎:ミスコン中止という面白そうな題材とは別に、性差別や性加害に言及していますので云々と事前にアナウンスが必要な時代になったのかとおもってピックアップ

・東京演劇道場「わが町」2023/01/25-02/08@東京芸術劇場シアターイースト:好きな演目ですけど柴幸男が素直に演出するかひねってくるか

・木ノ下歌舞伎「桜姫東文章」2023/02/02-02/12@あうるすぽっと:成河が出ているってところでピックアップ

・松竹主催「霊験亀山鉾」2023/02/02-02/25@歌舞伎座:「うぇーぁっはっはっはっ」で仁左衛門贔屓になった演目を歌舞伎座でも

・国立劇場主催「近松名作集」2023/02/04-02/21@国立劇場:「心中天網島」「国性爺合戦」「女殺油地獄」と有名どころを上演してくれるので勉強するならいい機会

・パルコ企画製作「笑の大学」2023/02/08-03/05@PARCO劇場:三谷幸喜の有名2人芝居が久しぶりに上演

・新国立劇場オペラ研修所「コジ・ファン・トゥッテ」2023/02/17-02/19@新国立劇場中劇場:モーツァルトだし値段抑えめだし勉強するならいい機会

・まつもと市民芸術館企画制作「博士の愛した数式」2023/02/19-02/26@東京芸術劇場シアターウエスト:串田和美を筆頭に期待できる役者陣なのでわりと有名な小説の舞台化を勉強するのにいい機会

・Bunkamura企画製作「アンナ・カレーニナ」2023/02/24-03/19@Bunkamuraシアターコクーン:宮沢りえ主演でトルストイの有名小説を勉強するのにいい機会

・新国立劇場演劇研修所「ブルーストッキングの女たち」2023/02/24-03/02@新国立劇場小劇場:「美しきものの伝説」と並んで有名な宮本研の芝居を観るいい機会

・神奈川芸術劇場プロデュース「蜘蛛巣城」2023/02/25-03/12@神奈川芸術劇場ホール:実は黒澤明の映画をほとんど観たことがないので舞台でもいいから観るならいい機会

他にナショナル・シアター・ライブで「レオポルトシュタット」が2023/01/06からあります。

調べていたら世田谷パブリックシアターとシアタートラムが1月は演目なしだったんですけど、メンテナンスでもやるのか予定していた公演が発表前に丸ごと飛んだのか、どうなんでしょう。

<2023年1月22日(日)追記>

劇場情報が欠落していたり間違っていたりしたところを修正。

2022年12月18日 (日)

シス・カンパニー企画製作「ショウ・マスト・ゴー・オン」世田谷パブリックシアター

<2022年12月17日(土)昼>

「マクベス」を上演する劇場の舞台袖。客入りは好調なものの酒癖の悪い主演は連日の飲みすぎで体調不良、演奏担当の一人も体調不良、叱ったスタッフは劇場に来ない、と頭の痛い舞台監督。プロデューサーの社長の判断で開演することにしたものの、関係者しかいるはずのない舞台袖に次々と人がやってくる。ようやく開演したもののトラブルがトラブルを呼ぶ。果たして無事終演できるかどうか。

三谷幸喜お得意の、固定された場所とトラブルが起きやすいシチュエーションを設定したウェルメイドコメディ。東京サンシャインボーイズ時代の脚本で初演1991年、再演1994年のものを、現代設定に合うように大幅に書換えたらしいです。設定がおいしいのでいくらでも書換えられるでしょう。すごくよくできた脚本です。

よくできた証拠に、前半に出てきた話題と大道具と小道具が、後半で全部使われる。後半を書いてから前半を書いたんじゃないかというくらいの繋がりです。名前だけで劇場に来ない登場人物と何故か劇場に来る登場人物が、普通に考えたらはちゃめちゃな設定ですが、それがどうした、面白ければ正義、という勢いがあります。やや客席の勢いが弱い回でしたけど、それでも笑いました。

で、笑っておいてなんですけど、微妙に乗りきれないところのある芝居でもありました。

ひとつは劇場設定。役者が2人、舞台袖スタッフが舞台監督を入れて3人だけで回しているわりに、劇場は半分ネタでシアターポクーン(シアターコクーンのもじりですよね)って台詞があるとか、いつかは大きな劇場で働けるようにならないとって台詞があるとか、観ていて劇中の劇場の規模感が一定しなくてもやもやしました。今回の会場の世田谷パブリックシアターって椅子で612席、立見を入れたら700人が入る中規模な劇場なんですけど、それ以上に構えが立派で天井も高いので大劇場っぽいんですよ。それを今回3階席から観ていたので、無意識に大劇場を想定していました。今回のチケット代がS席だと11000円だったのも無意識を後押ししていました。

初演が下北沢本多劇場、再演が(東京だと)紀伊国屋ホールで、当時ならチケット代は数千円だったでしょうから、そのころだとぴったりハマったのだと思います。ここらへんは脚本と興行のすれ違いです。

もうひとつは上演中の芝居(マクベス)の理解度が登場人物と一致していないところがある。理解度が高い側だと脚本家役の今井朋彦とか演奏時に舞台を覗く仕草を入れる(本当に演奏役の)荻野清子とか、理解度が乏しい側だと当日に代打で演奏を引受けたから演奏タイミングを忘れていて慌てて戻る峯村リエとか、このあたりの人たちは正しい。釈然としなかったのは詳しくてしかるべきはずの舞台袖スタッフの3人は、演技はよくても脚本(ショウ・マスト・ゴー・オン)の役のマクベス知識に届いていなかった。ここは突っ込みたい。

はちゃめちゃな設定でもよくできた脚本ですけど、見えないところに求められるリアリティが多い脚本でもあります。上演を中止した損害を計算して払戻し手続を把握したうえでの上演途中中止の提案とか、難しい(すでにチケットをもぎったあとだから現場で払戻しが最善だけど夜の回だったはずで払戻金を手元に用意できるのか、みたいな)。これだけ芸達者を揃えても上演するには手強い、面白い脚本を面白く立ちあげるのは難しいというのを久しぶりに観た芝居でした。

あとは配役表がないのと舞台が遠かったのとで、観なれない役者は誰が誰だかわからなかったのが客としてつらい。載っているサイトがあったら誰か教えてください。

<2022年12月23日(金)追記>

怪我と新型コロナウィルスとで役者が休演すると三谷幸喜が代打を続けてきましたが、ついに主役の舞台監督まで代打で登場することになりました。このまま完走した場合の代役メモを残しておきます。

福岡公演
全公演で小林隆(万城目充役)が三谷幸喜
11/07 昼
11/08  夜
11/09 昼夜
11/10 休
11/11 昼
11/12 昼夜
11/13 昼

京都公演
全公演で小林隆(万城目充役)が三谷幸喜
11/17 昼夜
11/18 昼
11/19 昼夜
11/20 昼

東京公演
小林隆復帰
シルビア・グラブ(あずさ役)が三谷幸喜
11/25 昼
シルビア・グラブ復帰
11/26 昼夜
11/27 昼
11/28 休
11/29  夜
11/30 昼夜
12/01 昼
12/02 昼
浅野和之(鱧瀬医師役)が三谷幸喜
12/03 昼夜 中止
12/04 昼  中止
12/05 休
12/06  夜
12/07 昼夜 昼のみ中止
12/08 昼
12/09 昼
12/10 昼夜
12/11 昼
12/12 休
浅野和之復帰
12/13 夜
12/14 昼夜
12/15 昼
12/16 昼
12/17 昼夜
12/18 昼
12/19 休
12/20  夜
鈴木京香(進藤役)が三谷幸喜
12/21 昼夜 中止
12/22 昼  中止
12/23 昼  中止
12/24 昼夜 昼のみ中止
12/25 昼
12/26 昼夜 昼は追加公演
12/27 昼

52ステージ(追加公演を入れたら53ステージ)中、フルメンバーで上演されたのは11/26-12/02と12/13-12/20の17ステージ、三谷幸喜が代打を務めたのが27ステージ、中止になったのが9ステージという、代打ステージのほうが多い結果となりました。自分が観たのは数少ないフルメンバー公演だったので、その点はついていました。

普段は役者の三谷幸喜にあまり好印象がないのですが、今回ばかりは「ショウ・マスト・ゴー・オン」を体現した三谷幸喜に拍手を送ります。

そしてこれを書いていて気がついたのですが、これだけのメンバーを揃えた鉄板公演であるにも関わらず、昼公演のほうが夜公演より回数が多いです。平日夜公演って今はそこまで駄目なのでしょうか。

2022年12月 2日 (金)

Bunkamuraがアクターズスタジオを開校(ただし1年限り)

こんなのが発表されていました。公式より

【速報】シアターコクーンがつくる演劇の学び場、準備スタート。
COCOON PRODUCTION 『コクーン アクターズ スタジオ』

(2022.11.23)

渋谷に、演劇の未来を拓く若者たちのためのアクターズスタジオが誕生!!
主任を務めるシアターコクーン芸術監督・松尾スズキをはじめ、第一線で活躍するBunkamuraシアターコクーンゆかりの講師陣が指導を担当します。
レッスンは演技のほかに、歌やダンス、パントマイム、時代劇の所作など。実践も交えながら1年間のカリキュラムを経て、演劇で求められる様々なスキルの習得を目指します。
さらに、シアターコクーンのプロデュース公演へ出演のチャンスがあります!

続報は、2023年2月までお待ちください!!

COCOON PRODUCTION
『コクーン アクターズ スタジオ』

主任:松尾スズキ(シアターコクーン芸術監督)

レッスン期間:2024年4月~2025年3月の1年間
レッスン場:Bunkamura館内 他

募集資格:18歳~26歳くらい
※演劇経験の有無は問いません。
※プロダクションや劇団に所属している方もご応募いただけます。
募集期間:2023年4月~7月 予定

※講師、応募方法など詳細は後日発表します。

主催/企画・製作=Bunkamura

■Twitterアカウント:https://twitter.com/cocoon_a_s (@cocoon_a_s)

コクーンの名前が入っていますが、シアターコクーンは2023年4月から2027年度中まで休館です。これも公式より

このたび、「Shibuya Upper West Project」の開始に伴い、オーチャードホールを除き2023年4月10日(月)から2027年度中(時期未定)まで休館することとなりました。この間併せてBunkamuraも経年使用による施設の補修や設備の更新などを行うとともに、新築される施設との一体化に向けた改修工事を実施する予定です。
なお、当社はBunkamuraの休館中も渋谷を含め東急線沿線の周辺施設や東急グループ各施設などで文化事業を継続してまいります。また、オーチャードホールにつきましては日曜・祝日を中心に営業を継続いたします。

つまりぱっと見、暇な時期を有効活用する話です。なので継続事業でないのです。今のところは1年で終わる単発企画です。

そう、期間が1年です。これどうなんでしょう。突然思いついて以前調べたことがありますが、どこもカリキュラムは最低2年が相場です。演技重視の実践寄りだと毎日授業を詰込むのにも限界があります。

何となく、プロデュース公演のスカウトがメインで、それをアクターズスタジオと銘打ったんじゃないかと邪推してしまいます。それはそれで機会だとありがたがる人もいるでしょう。ただなんとなく、スタジオとか研修所とか銘打ったからには毎年募集して毎年卒業させる継続事業であってほしいと願ってしまいます。

邪推に思い込みを重ねて悶々とするのはよくないので、素直に来年2月の発表を待ちます。

2022年11月27日 (日)

松竹主催「平成中村座 十一月大歌舞伎」平成中村座

<2022年11月12日(土)夜>

入れ上げた花魁に見捨てられ家からも勘当された若旦那、かばった八百屋の主人から唐茄子(かぼちゃ)を売って来いと言われて始めて棒手振りに挑戦したはいいが帰りにひもじい母子を見つけてしまい「唐茄子屋」。隅田川で舟を待つ客が七福神に見立てた踊りを踊る「乗合船恵方萬歳」。

「唐茄子屋」目当て。元となった落語があるそうで、ハロウィンに掛けた演目。だから頭としっぽはものすごくしっかりした歌舞伎。演出のノリが派手でも宮藤官九郎でなくともいいのではという内容。中盤の花魁が忘れられずに吉原に入ったところが腕の見せ所で、子役活用まで含めてにぎやかに盛上げる。世話物の途中に小劇場を混ぜた展開。

配役が不思議だった。勘九郎の若旦那はわかる、駄目でも憎めない主人公を好演。七之助の花魁とお仲の二役もわかる、派手な花魁も苦しいお仲も真面目に役を突詰めた形で、しかも芝居に馴染んだ好演。子役2人も上々。

不思議だったのは他。まず荒川良々が盛上げ役のイントロやアメンボ役なんかもやるけど、メインの八百屋の主人をまっすぐな演技で大人計画では観られない役どころ。そして片岡亀蔵が蛙のゲゲコを超が付くくらい真面目に演じていたのが、観る側にはありがたい。素人考えだとこの2人は逆になると思いますけど、入替えてどちらも熱演でした。悪い意味で気になったのは、大工の熊の橋之助と大家の坂東彌十郎。上手いけど浮いていたというか、一人で役を作って演じて対話していないように見えた。

なんか歯切れの悪い感想なのは冒頭とか途中とかで引っかかったから。冒頭で荒川良々が「自粛自粛ってやってられねえなあ(大意)」と客席を煽ったところは、体調不良で中止の回に当たってチケットキャンセルになった身としてはそれなら体調管理しっかりやってくれよとか。途中で「金にならないことなら何でもできる若旦那」「これが不要不急(大意)」ところは、いやそういう商売だろう今さらかよとか。ここら辺に長らく実力脚本家の座を張る宮藤官九郎の反骨精神みたいなものが見受けられるんですけど、観たときの心境と合わなかった。

「乗合船恵方萬歳」は踊りづくし。七之助が一番キレのある、って表現が歌舞伎の踊りで適当かわからないけどキレがあってきれいに見えた。驚いたのは表情。ものすごくまぶしい笑顔で、さっきまでお仲をやっていた人がこれだけ違う表情が作れるのは、やっぱり役者ってすごいんだなと再認識。勘九郎の踊りはそこまでキレがないのだけど動きに愛嬌があって、若旦那役もそうだったけどあの愛嬌が色気に見える人もいるんだろうな。

あとは劇場というか小屋の話。ものすごく観やすい。シアターコクーンと同じくらいの規模で、このくらいの規模だと熱気が集まって盛上がりやすい。いい劇場だった。十八代目勘三郎にちなんで隈取が劇場内の18か所にあるって紹介されていたけど、3か所しか見つからなかったのは無念。

2022年11月 5日 (土)

2022年11月12月のメモ

また新型コロナウィルスが増える気配があります。

・KERA・MAP「しびれ雲」2022/11/06-12/04@下北沢本多劇場:「キネマと恋人」と同じ島が舞台の新作、これを書いている時点で11/11までの公演が新型コロナウィルスで中止

・松竹主催「十一月吉例顔見世大歌舞伎」2022/11/07-11/28@歌舞伎座:昼の部は新之助菊五郎で外郎売と幸四郎猿之助で勧進帳、夜の部の助六は菊之助仁左衛門に加えて後半玉三郎も出演、海老蔵改め團十郎が出なければ両方観たいけどチケットも売切れているしどうしたものか

・KAAT×城山羊の会「温暖化の秋」2022/11/13-11/27@神奈川芸術劇場大スタジオ:城山羊の会じゃないのと思ったら主催企画制作が全部神奈川芸術劇場だった

・インプレッション製作「管理人」2022/11/18-11/29@紀伊國屋ホール:小川絵梨子演出だしイッセー尾形も出るけどいまいち事前イメージがつかめない脚本

・世田谷パブリックシアター企画制作「建築家とアッシリア皇帝」2022/11/21-12/11@シアタートラム:岡本健一と成河の2人芝居だけどそこに文学座演出家の生田みゆきでさらに事前イメージがつかめない脚本だけど、世田谷パブリックシアターはよくわからないことにわりと挑戦するイメージだからその点はイメージしやすい

・Bunkamura主催企画製作「ツダマンの世界」2022/11/23-12/18@Bunkamuraシアターコクーン:松尾スズキが作詞作曲まで自分で手掛ける新作ミュージカルはねっとりした展開を予感させる粗筋

・シス・カンパニー企画製作「ショウ・マスト・ゴー・オン」2022/11/25-12/27@世田谷パブリックシアター:三谷幸喜の再演もの、今回の本命

・小田尚稔の演劇「よく生きろ!」2022/12/09-12/18@こまばアゴラ劇場:説明がいつも粗筋に触れなくて事前イメージがつかめない小田尚稔の演劇の新作

・座・高円寺企画製作「アメリカン・ラプソディ」「ジョルジュ」2022/12/21-12/26@ 座・高円寺1:前半3日と後半3日で演目を切替える毎年恒例の企画、「アメリカン・ラプソディ」も「ジョルジュ」も真面目な話とおしゃれなピアノや歌を両立させているので観て損のない演目

・公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ制作「ジョン王」2022/12/26-2023/01/22@Bunkamuraシアターコクーン、2023/02/17-02/24@埼玉会館大ホール:中止公演のリベンジだけどさいたま芸術劇場が改装中なので埼玉公演目当ての場合は会場に注意

他に平成中村座「唐茄子屋」が11/27まで、と書くのは新型コロナウィルスの公演中止に被弾したから。嫌な予感がしていたから10月に行こうとしたのだけど体調不良で二の足を踏んで11月の早い日程のチケットを取ったらくらってしまった。

2022年11月 4日 (金)

まつもと市民芸術館企画制作「スカパン」神奈川芸術劇場大スタジオ(ネタバレあり)

<2022年10月30日(日)昼>

港町ナポリで港湾労働者として日雇いをしつつ、頼まれたら嫌とは言えないスカパン。世話になっている町の金持ちのボンボンからは一目ぼれした女性と結婚した直後に父から許嫁を紹介されたと泣きつかれ、その友達の別のボンボンもジプシー育ちの女性に一目ぼれしたが金が用意できなければ相手の親から結婚が許されないと泣きつかれる。双方の父親から金を引出して解決してやろうと一肌脱ぐことにする。

モリエールだから古典芝居の範疇で、筋書きは現代劇に比べればシンプルなもの。だけど仕上がりは不思議な手触りの舞台で「K.テンペスト2019」を思い出す。いいものを観たとは思うのだけど、ちょっと普通のいい芝居とは種類が違う。

古典喜劇だけど素直に終わらない。ボンボンを助ける過程で口八丁が過ぎて折檻され、その仕返しをするもののばれる。金持ちの父親に殺し屋を差し向けられて、助かるかと思いきや事切れて終わる。助けたはずのボンボンたちは偶然の勘違いで結婚が認められてめでたくなるも、スカパンの怪我を気にせずに盛上がり、スカパンが倒れて幕になる。古典らしからぬ展開はモリエールの脚本通りなのか演出なのか迷うところ。

スカパンだけ見れば金持ちの都合に振回された挙句に報われない末路を迎える悲劇だけど、芝居にそこまでの悲壮感はない。この演出を自分なりに言葉にすると、劇場で芝居をしているのではなく「祭に呼ばれて小屋で上演するけど祭だから観に来た客を楽しませる演目を持ってきた旅回りの一座の芝居」みたいな雰囲気を出すのに注力していた。たぶん美術もそういうイメージで作っていたはず。串田和美がいつもそんな感じだけど。

それでいて演出が投げっぱなしではないんだなと思わされるのが特にラストの場面。包帯を巻いたスカパンを金持ち親子は笑って迎えるけど、周りの人間は「この人大丈夫か」って顔で遠巻きに眺めたり、依頼主の金持ちが殺し屋をねぎらう動作があったり、いろんな想いの人間が同席していた。こういう細かいところがリアル。

ただしそれ以外の場面はなるべく明るく描く。スカパンがひとりだけの場面でふてぶてしいところも描くけど、明日は明日の風が吹くし何かあっても何とかならあな、というおおらかさがある。「先のことばっかり考えて何もしないやつなんか大嫌いだよ」の台詞がすごく似合っていた。最近そういう話をあまり見かけないので古典なのにむしろ新鮮に見える。それで結局悲劇に終わるのだけど、真面目に生きたからって大往生できると保証されるわけでもなし、いっそリアルに感じる。

たぶん演劇に求めるリアルの勘所がいまどきの一般的なリアルとは違う。現代的なストレートプレイよりも、極端な衣装や化粧と客席を意識した派手な演出をしながらも観客の心をつかもうとする歌舞伎に近い。元からそうだったのか、コクーン歌舞伎を演出してそうなったのかはわからないけど。

そのスカパンを演じた串田和美。声が若干小さかったけどこの劇場サイズなら大丈夫だし、おっさんがおっさんを言いくるめようとするマシンガントークが台詞回しを超えた味だった。そして身体がよく動くこと動くこと。やられたり逃げたりででんぐり返る元気もさることながら、腰を落とした姿勢の決まり具合やスローモーションの滑らかさは保たれていた。金持ちをからかう食卓の小細工なんかも器用にこなして、まだまだ役者を続けられる感がある。あとあの表情がスカパンですよね。若手役者にはできない面構えです。

役者は大森博史とか小日向文世もよかったし、二世組もいい感じだったけど、脇にいい役者が揃っていた。特に従僕仲間のシルヴェストルの武居卓と、ジプシー育ちの女性ゼルビネットの湯川ひなが、役どころを押さえた役作りと今回の演出に合った大きい演技を両立。殺し屋になるカルルの細川貴司はスカパン以外ではひとりだけ芝居の陰を作るところをきっちり。若手に恵まれるのは、これまでの芝居人生が報われている証拠。

長々と書いたけど一言でいえばやっぱり、何かいいものを観たという感触が残る芝居だった。観てよかった。観に行ったのがたまたま大千秋楽で、カーテンコールで「5年くらいしたらまた」って言っていたから期待したい。

«新国立劇場主催「レオポルトシュタット」新国立劇場中劇場